書き換えられた理
プロメテウスが操るゾンビが、私に向かって一直線に駆け寄ってきた。その腕には、鋭い刃物が取り付けられている。私は、この絶体絶命の状況を打開するため、頭の中で、僕が元いた世界の知識を必死に検索した。だが、この状況を覆す論理的な答えは、見つからなかった。
「……ッ!」
私は、迫りくる刃物から身を守るため、目を閉じ、腕で顔を覆った。その時、耳元で、リリアンの声が聞こえた。
「あなたの『物語』は、ここで終わらせない!」
その声と同時に、私の目の前で、何かが起こった。
カチッ
まるで、時計の針が止まったかのような、小さな音が響いた。私は、恐る恐る目を開けた。
目の前で、私に向かって跳びかかっていたゾンビが、ぴたりと動きを止めていた。彼の腕に装着された刃物は、私の顔からわずか数センチのところで静止している。
まるで、時間が止まったかのように。
いや、違う。時間が止まったのではない。この世界の**『理』**が、書き換えられたのだ。
「私の能力は、この世界の『物語』を、希望に満ちた結末へと書き換えること。彼は、あなたを殺すという『物語』を紡ごうとした。だから、私は、その『物語』を、違う結末へと書き換えた」
リリアンは、そう言って、私の隣に立った。彼女が手をかざすと、ゾンビの腕に装着された刃物が、まるで溶けるかのように、音もなく地面に落ちた。
「これは…」
私は、彼女の能力に、驚きを隠せなかった。
「私の力は、あなたの知っている科学や物理法則とは違う。これは、この世界の『物語』に直接干渉する力。そして、この力は、プロメテウスも持っている」
リリアンは、プロメテウスを睨みつけた。
「プロメテウス!あなたの『絶望』という名の物語は、もう通用しないわ!」
「馬鹿な…!お前の力は、私には及ばないはず…!」
プロメテウスは、信じられないという顔で、リリアンを見た。
「あなたと私は、もう違う。あなたは、『絶望』という物語を紡ぐ。私は、『希望』という物語を紡ぐ。だから、あなたの『物語』は、私の『物語』に、必ず敗北する」
その言葉と同時に、リリアンは、教会全体を包み込むような、優しい光を放った。すると、プロメテウスが操るゾンビたちが、まるで糸の切れた人形のように、次々と地面に崩れ落ちていった。
プロメテウスは、絶望的な顔で叫んだ。
「お前は…!お前は、この世界の**『歪んだ理』**だ!」
そして、彼は、私の腕に残されたタトゥーに目を留めた。
「『物語の紡ぎ手』…!そうか、お前が、彼女の『希望』の源か…!」
プロメテウスは、何かを悟ったかのように、私に視線を向けた。彼の瞳に、深い憎悪が宿っていた。
「覚えておけ、ジョナサン・クラーク。お前の『物語』が、この世界を滅ぼすことになろうとも、私は、お前を必ず止めてみせる!」
プロメテウスは、そう言い放つと、まるで影が溶けるかのように、闇の中に消えていった。彼の言葉は、私の心を深く抉った。
リリアンは、疲れたように膝を突き、息を整えていた。
「大丈夫?」
私が声をかけると、彼女は静かに頷いた。
「ええ。もう大丈夫。彼の『物語』は、一時的に止まったわ」
私は、彼女の能力と、彼女が背負っている重い使命を理解した。彼女は、この世界の『不条理な物語』と一人で戦っていたのだ。




