孤独な正義
私は、リリアンからのメッセージに導かれ、ロンドンの古い教会へと向かった。ネオンの喧騒から離れたその場所は、静寂に包まれていた。教会の扉を開けると、ステンドグラスから差し込む月の光が、祭壇に立つ一人の女性を照らしていた。
リリアンだ。
彼女は、まるで絵画から抜け出してきたかのように、そこに立っていた。
「来ると思っていたわ、ジョナサン・クラーク。あるいは…『物語の紡ぎ手』」
彼女の声は、電話で聞いた時よりも、はるかに冷たく響いた。
「君は…僕を試したのか?」
私が問いかけると、彼女は静かに頷いた。
「ええ。あなたは、私の『駒』を殺さずに捕らえた。それは、MI6の『正義』とは異なる、あなた自身の『正義』を示したということ。だから、私はあなたに会いに来た」
私は、彼女に歩み寄った。
「君は、何のためにこんなことを?MI6が作り出した『歪んだ物語』…それは、君の過去の過ちだと言った。だが、君は、それを消し去ろうとしている。なぜ、そんなに過去にこだわるんだ?」
リリアンは、祭壇に置かれた古びた日記を手に取った。
「これは、MI6とヘリオンが、私を『物語の改変者』に変えるために行った実験の記録よ。ここには、私の人生だけでなく、私と同じ境遇に置かれた、多くの子供たちの悲劇的な物語が記されている」
彼女の瞳に、深い悲しみが宿っていた。
「彼らは、私の能力で、**『不条理な物語』**を消し去るための『道具』とされた。そして、彼らが私の言うことを聞かなくなった時、MI6は彼らを『歪んだ物語』として、歴史から消し去ろうとしたのよ」
リリアンの言葉は、長官が言っていた『歪んだ物語』の真実を物語っていた。
「MI6は、彼らの存在を隠蔽するために、彼らを殺した。私は、彼らの『物語』を消させない。彼らが生きた証を、この世界に残したい」
「それが、君の『正義』か?」
「そうよ。この世界には、私の力でしか救えない物語がある。だから、私は、彼らの『物語』を、希望に満ちた結末へと書き換えるわ。たとえ、それが、MI6や長官が考える『正義』に反することだとしても」
彼女の信念は、揺るぎないものだった。私は、彼女の孤独な戦いを理解した。彼女は、誰からも理解されず、誰にも頼ることなく、一人で戦ってきたのだ。
「僕が、君にできることは?」
私がそう尋ねると、彼女は、祭壇に置かれた日記を、私に差し出した。
「この日記には、彼らの『物語』を読み解くための『鍵』が隠されている。私と一緒に、この世界の『不条理な物語』を、正しい結末へと書き換えない?」
彼女の誘いは、MI6の『正義』を否定し、彼女の『正義』に加担することを意味していた。




