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Invitation to MI6  作者: 徳田新之助
第一章 この世界の理
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もう一つの正義





私は、MI6本部のアーカイブ室にこもり、長官が語った「歪んだ物語」の痕跡を探し始めた。ヘリオンとの協力関係、そして彼らが作り出した「生物兵器」…それらの情報は、厳重に封印され、通常のアクセス権限では閲覧できないようになっていた。


だが、私の頭の中には、プログラマーだった頃の知識がある。




(このデータベースの構造は、僕が元いた世界の古いシステムによく似ている…)




私は、長官から与えられたタブレットを使い、秘密裏にデータベースのバックドアを探し始めた。数時間後、私は、MI6のセキュリティシステムに、意図的に仕掛けられた「脆弱性」を発見した。それは、ヘリオンのテロリストたちが、過去に自らの痕跡を消すために作った、**『隠しバックドア』**だった。




私は、その隠し扉を通り、MI6のデータベースに隠された、もう一つの「物語」へとアクセスした。


そこには、ヘリオンとMI6の協力関係の詳細な記録が記されていた。彼らは、人間を**『無意識の兵士』**に変える技術を確立し、それを使って、敵対勢力に様々なテロ行為や破壊工作を行っていた。




そして、その記録の奥に、私は、リリアンが言っていた「歪んだ物語」の核心に触れる、ある報告書を見つけた。




報告書のタイトルは、『プロジェクト・アザゼル』




その報告書には、MI6とヘリオンが、人間を「物語を改変する者」に変える実験を行っていたことが記されていた。実験の被験者は、特殊な遺伝子を持つ、わずか数名の子供たち。彼らは、歴史の裏側に葬られた「不条理な物語」を読み解く能力と、それを書き換える能力を、人為的に植え付けられていた。




そして、その被験者の一人に、**『リリアン』**という名の少女がいた。




彼女は、実験によって、他者の心を読み解く能力と、物語を「改変」する能力を身につけた。しかし、彼女は、MI6とヘリオンが、その能力を私利私欲のために利用しようとしていることを知り、反旗を翻した。彼女は、自らの意思で「正義の代行者」となり、過去の過ちを正そうとしていたのだ。




私は、この報告書に、すべての謎が繋がっていることを確信した。リリアンは、MI6とヘリオンが作り出した、**『歪んだ物語』**の被害者であり、同時に、それを正すために戦う、孤独な戦士だったのだ。




私は、MI6のデータベースを閉じ、アーカイブ室を出た。外は、すでに夜の闇に包まれていた。


長官のオフィスに向かうエレベーターの中で、私は、この物語の真実が、僕が思っていたよりも、はるかに複雑で深いものであることを理解した。




リリアンは、ただのテロリストではない。彼女は、MI6が作り出した、過去の過ちの象徴だった。


私は、長官のオフィスに入り、彼をまっすぐ見つめた。




「長官、僕は、リリアンの過去を知りました。彼女は、MI6とヘリオンが作り出した…」




私が話し始めると、長官は、悲しげに首を振った。




「知っている。すべてだ。我々は、そのプロジェクトを**『隠蔽』**した。リリアンは、我々にとって、消すべき存在だった。彼女は、我々の過去の過ちを、世界に暴き、MI6の信用を失墜させる可能性がある」




長官の言葉は、私の心を凍りつかせた。




「では、あの男は?」




「彼は、リリアンと同じプロジェクトの被験者の一人だ。彼らは、自らの意思を失い、ヘリオンの駒となった。リリアンは、彼を操ることで、過去の過ちを僕に知らせたかったのだろう。我々の**『歪んだ物語』**を、君の目で確かめてほしかったのだ」




私は、長官の言葉に、激しい怒りを覚えた。




「あなたの言う『正義』は、MI6の都合の良い正義だ!あなたは、世界を平和に保つために、MI6の過去を隠そうとしている!」




「そうだ。それが、MI6の、そして私の『正義』だ。世界には、知られてはならない真実がある。知ることで、世界が混乱に陥り、さらなる悲劇を生むこともある。君も、その真実を胸に秘めて、MI6の『正義』を貫いてほしい」




長官は、そう言って、私に一枚の写真を差し出した。それは、リリアンの、子供の頃の写真だった。


私は、その写真と、長官の真剣な眼差しを交互に見つめた。




私は、MI6の『正義』を貫くべきか。


それとも、リリアンの『正義』を信じ、真実を暴くべきか。




私の選択が、この物語の結末を左右する。

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