死人の痕跡
私は、長官から受け取った地図を手に、ゾンビが目撃された牧場近くの森へと足を踏み入れた。昼間だというのに、森の奥は薄暗く、ひんやりとした空気が肌を刺す。獣道に、不自然なほど深く刻まれた足跡を見つけた。それは、ふらふらと、しかし力強く地面を踏みしめたかのような、奇妙な足跡だった。
「やはり、人間ではない…」
私は、その足跡を辿って、さらに森の奥へと進んだ。足跡は、途中から途絶えていた。まるで、地面に吸い込まれたかのように。
「消えた…?」
私は、足跡が途切れた場所の周囲を、注意深く調べた。すると、木の幹に、奇妙なメッセージが刻まれているのを見つけた。それは、牧場に残されていたタロットカードの絵柄と似ていた。
『X The Wheel of Fortune(運命の輪)』
そして、その下には、血で描かれたような、小さな記号が二つ並んでいた。
「これは…モールス信号…?」
私は、その記号を、頭の中で必死に解読した。僕が元いた世界で、趣味として学んでいた知識だ。
「……--... . -... -..-」
それは、二つの単語を意味していた。
"HOPE"
そして、もう一つは。
"DEATH"
「希望…そして、死…」
私は、このメッセージが何を意味するのか、その場で考え込んだ。
ゾンビは、ただの生物兵器ではない。彼らは、何かを僕に伝えようとしている?いや、それはありえない。彼らは、意志を持たない。
では、このメッセージを残したのは、誰だ?
私は、この事件の背後にある、ある人物の存在を確信した。彼は、ゾンビを操り、この奇妙な事件を起こすことで、僕に何かを伝えようとしている。そして、その目的は、ただのテロではない。それは、僕にしか解けない、奇妙な謎かけなのだ。
その時、背後から、低い唸り声が聞こえた。
振り返ると、そこには、目撃された男が立っていた。痩せこけて、顔色はまるで死人のようだった。彼の目は虚ろで、口元には、乾いた血が付着している。
「グルルルル…」
男は、私をじっと見つめ、ゆっくりと歩み寄ってきた。彼の腕は、不自然なほど長く、爪はまるで獣のようだ。
このままでは、戦闘になる。だが、彼は、ただの人間ではない。僕の知る常識が通用しない相手だ。
私は、長官から渡された拳銃を構えた。しかし、この男を殺すことは、この事件の謎を永遠に解けなくすることになる。
誰かを救うために、誰かを犠牲にする。この世界に来てから、僕は何度もそのような選択を迫られてきた。それは、この世界の常識なのかもしれない。だが、僕が元いた世界の物語は、その選択によって、主人公自身が傷つき、救われなかったという悲劇的な結末を迎えていた。
僕は、誰かを犠牲にする「正義」を選びたくない。
どうする、ジョナサン・クラーク。




