MI6の秘密
尋問室を出て、私は長官の執務室に戻った。長官は、ヴァルカンの尋問の記録をタブレットで確認し、満足そうに頷いていた。
「見事な尋問だった。君は、相手の信念すら打ち砕くことができる。やはり、君の思考は我々にはないものだ」
長官の言葉は、私に向けられたものだが、まるで自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。
私は、ずっと心の中で引っかかっていた疑問を口にした。
「長官、MI6には、私のような…超越者はいないんですか?彼らと戦うには、能力者がいた方が有利でしょう?」
長官は、私の問いに静かに笑った。
「いないわけではない。MI6には、君の知らない部署がいくつもある。だが、君の知るMI6…表向きのエージェント部隊に、超越者はいない」
「なぜですか?彼らの方が戦力になるはずです」
「彼らの力は、あまりにも強力すぎる。そして、コントロールが難しい。彼らの能力は、精神状態に大きく左右される。怒り、憎しみ、悲しみ…。負の感情に囚われたとき、彼らは敵か味方か区別がつかなくなる。MI6は、そうしたリスクを排除するため、超越者を戦力として加えることを避けてきた」
長官は、再びグラスにスコッチを注ぎ、私に差し出した。今度は、私は黙ってそれを受け取った。
「君は、そのリスクがない。君は、元々この世界に属さない存在だ。そして、君は、自分自身が何者かを理解し、自分の能力をコントロールすることができる。それが、君と彼らの決定的な違いだ」
私はグラスを手に、遠い故郷の空を思い浮かべた。そこには、穏やかな日常と、平凡な自分がいた。だが、もう、その場所に戻ることはできない。
私は、この世界の運命を背負った、MI6のエージェントなのだ。