表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/17

第9話 花を散らす。

「・・・はああ。サクラチル、かあ。なんだか寂しい言葉ですよね、殿下?」


また…うちのナメクジが窓の外を眺めながら、物思いにふけってるな?仕事しろよ!


「夕方も少しずつ、明るくなってきましたよね…。もうすぐ春かあ…。」


いや、お前といまさら時候の挨拶する気はないけどな。


「サクラチル?花が散る、ってことだろう?よく、ほら、女の子が処女を散らされるときにも使うよね?」

「・・・え?なんてことを言うんですか!!」

「なんてことって…お前聞いていなかったの?知っているのかと思ったよ?」

「何がですか?」


何怒ってんの?


「ほら、お前の友人のエル?30も年上のそういう趣味の脂ぎった子爵に嫁がされるんだよ?試験落ちたから。」

「・・・え?」

「あら?知らなかった?試験に受かれば良し、ダメならすぐ嫁入り。貴族令嬢ならよくある話でしょ?」

「え?ええええ??」

「あ、本当に知らなかったんだ。」


ガタリと立ち上がったディーは、また座った。何がしたいのかなあ。


「え?だって…来年…。」


頭を抱えている。


「頭を抱えるぐらいならさあ、なんでプロポーズしとかなかったのさ?」

「ぷ…。だって、友人だし。僕は爵位もないし。学生だし。役職もないし…。それに、来年があるからって思ってたし。ぷ、プロポーズとか…。」

「・・・まあ、よく考えな。あ、もう間に合わないか。もう国元に帰って、婚姻の用意をしているようだしな。」

「・・・・・」

「自分の親より年上の見たこともないぶよぶよのオヤジにさあ、組み敷かれんだよ。なあ?花が散らされる?」

「・・・・・」

「若い子が好きなオヤジでさあ、あの子で後妻は何人目だったかなあ。」

「六人目ですね。」

さりげなくお茶を出してくれた侍従のローマンが口をはさむ。


「・・・・・」


「色々悪い噂もあるやつでさ。小さい子が好きだから。後妻はみんな背が小さかったような…。エルって子も、小さ目?」

「・・・・・」

「ん?まあ、いいか。ただのお友達だしな。そう言えば、イングリットが新しく侍女を雇ったから、紹介するね。連れて来るらしい。」

「あの。しばらく仕事を休んでもいいでしょうか?あの…。」


仕事?お前…近頃ろくに仕事してないデショ?

ガタン、と、ディーが立ち上がると、座っていた椅子がひっくり返る。


「・・・父上に頼んで、いや、兄上に?こうしてはいられない!」


声、出てるよ?そうそう、人に頼むのも大事だね。


「あら。ディー、どこかに出かけるところだった?」


慌てふためいてドアへ急いでいたディーが、ちょうどよく入ってきたイングリットに呼び止められる。


「私の新しい侍女を紹介するわ。侍女兼私設秘書になる予定よ。よろしくね。」


紹介された侍女は、イングリットの後ろに控えていたが、それに気が付かないほど本当に小さい。

お辞儀をした新しい侍女が、ゆっくりと顔を上げる。


お仕着せの侍女服に、癖のある黒髪を流して、丸眼鏡。琥珀のような瞳。



「初めまして。エルフリーデと申します。」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ