表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/17

第8話 結婚承諾書。

「さあ、エルフリーデ、この書類にサインしろ。残念だったなあ。お父さんはお前に期待してたんだけどなあ。」


笑いながらそう言って、父が私の前に出したのは、結婚承諾書。お相手の子爵殿のサインはもう入っている。義母が隣に立ってやはり笑っている。


試験に落ちたのは、義弟が知らせたんだろう。割とすぐに、帰ってくるように家から手紙が届いた。一度だけでもチャンスを与えて下さっただけ、良しと思うしかない。王城に就職出来たら、仕送りをする、という条件付きだったが。


父に促されて、ペンを取る。



エルフリーデ・ライナー


これで終わり。楽しかったなあ、学院生活。


長かった受験勉強もディーがいたから楽しかった。真面目で優しくて勤勉なディー。

一年の時、数学の定理で、どうしてもわからないところを思い切って聞いてみた。教え方は丁寧。数学を教えてもらう代わりに、彼が苦手だという外国語の会話に付き合うようになった。

たまたま目指しているところが一緒だったから、3年間一緒に勉強した。


あの人は…いい事務官になって、ゆくゆくは本人の望んだとおり、宰相職まで登るのだろう。・・・見たかったなあ。


ふふっ。


外が何やら騒がしい。

ペンをゆっくりと置く。


その時、騎士が屋敷に乗り込んできた。

王太子印のついた文書を掲げる。


「今回の事務官採用試験での不正受験の疑いがあり、エルフリーデ嬢及び、ライナー伯爵殿を連行いたします。」


え?不正受験?


父が走って逃げようとして押さえ込まれている。何?


「エルフリーデ様はこちらの馬車にどうぞ。」

父とは違う馬車の様だ。

「道中のお世話をさせていただきます、カルラと申します。何なりとお申し付けください。」

「え?」


王城のお仕着せ侍女服を着たその女性は、にっこり笑って席を勧めてくれた。後から走ってきた騎士から、書類を貰っている。

「この書類でよろしいでしょうか?」

「はい。ありがとうございます。」


さっきサインした婚姻承諾書をにこやかに笑いながら破いている。


よく…現状がわかりませんが?




*****


机の上には26点の答案用紙。


「わ、私は、わかりません。普通に受験して、合格しただけですから。」

「これは?あなたの字よね?」

「え?いえ、あの…。」

「ちなみに、あなたが下さった私の婚約者宛ての恋文がこれ。サインもあるわ。熱烈な恋文をありがとう。」

「・・・な。」

「私には同じ字に見えるんだけど?」

「・・・・・」


赤毛のモーニカ嬢は、動揺してる?

「ち、違います。あなたが私に嫉妬して図ったのね?」


え?逆に、何のこと?開き直るの早いわね?


「私が…殿下の御側に上がるのがそんなに嫌なの?嫌がらせ?私は…殿下の秘書官になって…。あなたみたいな人より、私の方が可愛いもの。お父様もいつもそうおっしゃっているわ。望めば王妃になれるよ、って。」


・・・それは…凄いわね。


ごめんなさい。どう説明すればいいのかわからないわ。言葉、通じてる?こんな感じの人があまり近くに居なかったから…。


「おやおや。珍しくイングリットが苦戦しているね?くくっ。」

「・・・・・」

「アンドレアス様あ!!この女が、変な言いがかりをつけるんですう!!!」


にこやかに入ってきた殿下の顔色が変わる。


「・・・この女?イングリットのことを言ったのかい?」

「そうですう。さっきからわけわかんないことばかり言って、私を陥れようとしているんですう!!!助けてください!!」


もう涙目だ。凄いね。すがるような上目遣い?


「・・・へえ。まず、私の名を呼ぶことをお前に許可していない。それから、私の婚約者に対して、この女?はっ。」

「・・・え?」


ちらりとアンドレを見る。そうじゃない。

一つため息をついて、アンドレが言い方を変えてくれた。


「ねえ、モーニカ嬢?本当のことを教えてくれないか?私とあなたの間柄じゃないか?ね?誰にお願いしたの?これ、君が書いた字だよね?」


あなた…切り替え早いわね。


「え…はい。エーリヒという1年生から、聞いたんですう。お金さえ積めば、事務官にしてくれるって。だからあ、私、殿下といたいからあ、お父様にお願いしたんですう。」


凄いこと言ってるって自覚なんかはないんだろう。心なし嬉しそう。綺麗に着飾ってきたモーニカ嬢はくねくねとうねりながら殿下を上目遣いで見ている。


「話が早いわね。じゃあ、あとは丸ごと頼むわ。」

「え?丸投げ?」








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ