第6話 答案用紙。
「・・・と、いうわけで、私はしばらくあなたの仕事手伝えないから。」
「え?俺の片腕、今、ナメクジみたいになってるんだけど??」
「・・・・・」
ナメクジは事務用の机に座ってはいるが、心ここにあらず?
ダメージでかそうね?
大きな体を折り曲げるように俯いている。書類は広げてあるが、さっきから進んでいるようには見えない。
ぷぷっ。
この、殿下の弟分のナメクジは、きっと自分のその気持ちが何なのかさえ…気づいてないわね?
さて。お姉様が一肌脱いで差し上げましょう。
*****
王太子である婚約者の名前と権限を使って、今回の事務官採用試験の試験結果を一式持ってこさせた。殿下の控室に運ばせてある。
300人を超える受験者の、口頭試験の結果表と筆記試験の答案用紙。かなりの量だわね。
カルラと二人でこもって、さくさく目を通していく。
満点は3人。ディーと、一浪して、留学していた侯爵家の次男坊。もう一人、意外にも知っている子だった。モーニカ・アルミン。男爵令嬢だ。
・・・この子?
失礼だが、そんなに賢そうには見えなかった。私と婚約者が学院の3年生の時に1年生。ディーの同学年だが、クラスが違うので奴は顔も知らないかも。
何でそんな子を知っているかと言うと…よく転ぶ子、だったから。
校舎の角とか、渡り廊下とか、カフェテリアの入り口とか…。なんかの病気なの?と、思うくらいに殿下の目の前で転んでいた。殿下とほとんど一緒にいた私も見ていた。不思議な子…。
クリクリの赤毛が目立ってたなあ。
もちろん護衛が付いているので、引きずり出されていたが…。
あの子がねえ…。
まあ、性格と勉強の出来不出来は関係ないけど。
少し不思議だったので、その子の口頭試験の結果表も見てみる。
「・・・・・」
まあ、お勉強ができても、口下手な子はいるからね。うん。先入観で人を見るのはいけないな。
気を取り直して、続き。
ようやくディーの友人のエルの答案用紙を見つけた。
どれどれ?
・・・才女って、言ってたよね?
・・・26点か。論外だな。字も下手くそだ。
体調だの、緊張だの、って感じではなく、これは放棄していた感じ?ははん。家のために土壇場で色々諦めたのか?じゃあ、しょうがないな。
「お嬢様?見つけました。」
「ん?」
「これと、こちらですね。見てください。紙が少し歪んでいますでしょう?」
「ん。そうね?」
「水を含んだ布で、叩いた跡ですね。うっすらと布目が残っています。」
「ん?なんのために?」
「ここを見てください。インクがにじんでいますでしょう?乾ききらないうちに上書きしたと見ましたね。」
「・・・差し替え?」
「で、しょうね。」
え?
自分で見ていた二人分の答案用紙も名前のあたりをよく見る。うーーーーーん。
「カルラ?これは?」
「ビンゴ、ですね。」