第4話 合格祝い。
「・・・殿下、事務官の夏の補充試験の予定はありますか?」
「は?お前、合格したばかりで、何イッテルノ?」
「ディーデリヒ、合格おめでとう。」
「・・・ありがとうございます。イングリット様。」
王太子の執務室で、婚約者のイングリット様は机を並べている。
ここのところ、回ってくる書類が多くなったから。イングリット様がサクサクと書類を仕分けている。そこに僕と事務官が3名。
「何か、お祝いで欲しいものがある?」
「・・・・・」
欲しいもの?
一瞬、丸眼鏡のちんちくりんのエルの笑顔が浮かぶ…。
「夏の補充試験、ですね。」
イングリット様が、驚いた顔で書類から目を離す。
「ディー?あなたって、堅物で冗談も言わない子なのかと思っていたけど、面白いこと言うのね?確かに…例年だと3名ぐらいの補充があるけど、今期はそれを見越して3名補欠で入れているから、無いわよ。経費の無駄遣いだから。あなたも賛成したでしょう?」
「・・・え?」
・・・ああ。した気がする。
国中外から狭き門を目指して、18歳から22歳までの若者が集まる。能力さえあれば、平民でも受験できる。
試験会場の運営・管理はもちろんだが、王都に集まる人の数が増えるので、治安維持も金がかかる。色々な人が来るからね。例年の追加募集時にも3名ほどの募集に、やはり200人以上が応募する。効率を考えると、本試験であらかじめ補欠採用をしていたほうが無駄がない…そう言った。確かに言った。
「・・・・・」
「あなたが合格したのにちっとも嬉しそうじゃないのは…。一緒に受験して落ちた同級生のこと?」
「ああ。なんだっけ?エル君?」
「一緒に王城勤めが出来ると喜んでたものね?でも、落ちたものはしかたがないわ。どんなに出来のいい子でも、落ちることはあるわよね?体調とか?緊張とか?そういったものも乗り越えないと、ここでは続けていけないわ。」
「・・・・・」
「諦めなさい。また来年ね。一年待てばいいだけでしょう?」
「・・・・・」
*****
ここのところ、私の婚約者の側仕えの元気がない。
事務官採用試験の物凄い倍率を勝ち抜いてきたというのに。変な子。
小さい頃から一緒にいるが、あんまり感情を出す子じゃなかったのに。仲良しの同級生が不合格だったのがそんなにショック??
「え?あいつ…男色だった?ここ3年、学院の話はエルとこんな話をした、だの、なんとかについてエルの意見はこうだった、だの…。結構なついていたからな。」
「・・・そうね。男色はともかく…。ガッチガチの堅物だったディーが、エルって子の話をするときには笑うようになったわよね?よほど仲がよかったのね?でも、まあ、試験結果だけはねえ…。どんな子でも、落ちる時は落ちちゃうしね。」
「そうだな。」
うふふっ。あのディーの仲良しの子って、どんな子かしら?
「ねえ、カルラ?ちょっと調べてきてくれる?」
控えていた侍女に声を掛ける。軽く頷いて、彼女は部屋を出て行った。