第3話 ちんちくりん。
高等部の3年生の年明けは、ほぼほぼ社交の勉強になる。
卒業後は領地に帰る者がほとんど。女の子は、卒業と同時に結婚する子も多い。
僕らのような就職・進学組も…事務官だったり騎士を目指していたり、アカデミアや専門機関に行く奴ら…。1月中には結果が出るので、3月の卒業までは社交のおさらい。
合格の結果を担任に報告して教室に向かうと、エルの姿はなかった。
そもそも、この時期に全員は揃わないことの方が多い。
落ち着かない昼休みを一人で過ごした。
そう、いつもならエルと…。
僕の苦手とする外国語で会話をしながら、勉強はもちろん、政治や社会情勢や気象の話。農業試験場で新しく開発された麦の話…。
・・・今思うと、色気も何もないな。
初めの頃は、会話に参加しようとするご令嬢が押し寄せたが、苦笑いしながら去って行った。
僕は…。
勝手に僕とエルのこの良好な関係は、ずっと続くと思っていた。
「王城の事務官採用試験を受けるんです。できれば秘書官を目指したいです。」
そう言って、嬉しそうに笑っていた。
僕は公爵家の息子だが、三男坊。
小さい頃から、二つ上の第一王子に付いた。王子とその婚約者のお二人の会話はいつも刺激的だ。この国をどうしていきたいか。そのためには何が必要か。改めるべき点はどこか…。
僕は、この二人を支えるべく、ゆくゆくは父の跡を継いで宰相になるつもりだ。当然、事務官採用試験には合格する必要があった。まあ、したけど。
人がまばらな学院の庭に、黒髪の三つ編みを揺らして走ってくる、丸眼鏡のちんちくりんのエルの姿を探す。琥珀色の瞳はいつも輝いていた。
・・・次の日も、エルは教室には現れなかった。