第15話 そしてそれから。
「あの二人は、結局どうなんだい?」
「え?今さらですか?」
僕が国王になって早、10年。イングリットの間に3人の子供もいる。子供たちは教育係になったカルラに厳しく育てられている。まだまだやんちゃだが。
春の午後の中庭は暖かく、思いのほか静かだ。子供たちがカルラに連れられて下町の社会見学に行っているから。もちろん護衛付き。ローマンから聞いている。
庭の隅に花をつけた樹木。
久し振りに、奥さんと二人きりの午後のお茶。
「エルは良い領主になりましたね。教育に力を入れていて、ライナー伯爵領から高等専門学校や学院に進む子供も増えています。ほとんどの子が卒業後に領に帰っています。先生になったり、農業指導員になったり、新しい産業を興す商人になったり、ですね。」
「ああ。そのようだね。」
「先日、領地での特産物にしたいという改良種のサクランボが届いておりましたよね。大きな実を付けましたね。うふふっ。」
「ああ。美味しかったね。・・・そうなんだけどね…。」
「私も、少しは反省しております。我が国で一番初めの女領主、という重圧を与えすぎたのではないかと。本人は、折角女性なのだから女性の感性も武器にしますよ、と言ってましたね。うまい具合に進みました。あの子が成功したおかげで、国内に今は3名の女領主がいます。そのうち、女領主、なんて呼び方もなくなるでしょうね。」
「・・・・・」
「あの子は…結婚はしないそうです。親戚筋から養子を取るつもりの様ですね。先日の手紙に書いてありました。男の子でも女の子でも、どちらでも構わない、と。あの子らしいですね。」
「・・・あの二人は、それでいいのだろうかね?」
「ディーにカルラが聞いたところ、いい友達だから、と言っていたようです。いまだに手紙のやり取りはあるようです。内容は、領地運営に対するアドバイスや、新しい産業を興すときの助成金の問い合わせや…色気のあるような話ではなさそうです。うふふっ。ディーも刺激を受けて、若い領主たちとの懇親会など開いてますでしょう?」
「そうだな。ディーは…結婚しないのかな?」
「年若く宰相まで上り詰めたディーデリヒは、若いご令嬢に大人気らしいですよ?まだ決まった方もいないので。」
「・・・・・」
「結婚するのが最高な生き方でもありません。人それぞれですからね。」
「え?」
「ああ。私にとっては最高の選択でしたよ。並んで歩こうと言って下さった夫でしたからね?うふふっ。幸運でした。」
「・・・・・」
柔らかな風に吹かれて、花びらが運ばれてくる。
二人で同じものを見る。
穏やかな昼下がり。
本編 完です。番外編が続きます。