第14話 永久就職。
「今回は恩赦も特赦もいたしません。」
僕とイングリットの結婚式まであと半年。
国王陛下に直接、お祝いの希望を聞かれたイングリットが、一番欲しいものを口にする。
「女領主をお認め下さい。ここに、貴族議会での議事録と嘆願書をお持ちしました。」
2年前の大きな変革は、ようやく芽を出し始めた。
若手貴族の教育。あの時据えた若い領主たちは、広い目で世の中を見るように教育された。新しい産業、新しい職業訓練校、新しい農地活用。能力さえあれば、女性でも平民でも起用する。もちろん、領民とその生活を守ることが第一条件。問題が発生すれば、その都度、僕とイングリットが育てた指導官が納得するまで話し合う。
王城の事務官の雇用も、昇進も、きちんとした基準を設けた。女性に対しては出産休暇も取れるようにした。まだまだ利用者は少ないが。
・・・少しずつ、変わってきたと思う。まだ、始まったばかりだが。
「ほう。そんな時代なのだな?」
「はい、陛下。領主の代替わり時には必ず指導官が入り、会計の監査と運営指導を行えるように整備中です。」
「うむ。アレクシスももちろん、同意見なんだな?」
「はい。もちろんです。僕たちは、妻が一歩後ろを付いて歩くのではなく、並んで一緒に歩こうと誓っていますから。」
「・・・そうか。」
議事録と嘆願書を読んでいた陛下が、一つため息をついた。
「わしの様な古い考えの者はまだまだおるだろう。険しい道のりだぞ?」
「まあ、なんとかいたします。一人ではありませんのでね。」
「そうか…。時代が変わるのだな。」
半年後の僕たちの結婚式と同時に公布された貴族典範の改定文には、こう書かれていた。
【爵位の継承者は《《男女にかかわらず》》その能力を有する者とする。】
その年の冬の大舞踏会において、この国初の女性領主が誕生したことを国王が宣し、集まった皆に紹介された。
エルフリーデ・ライナー伯爵。
背が低いのが気にならないほど、彼女は堂々としていた。
初の女領主が誕生した瞬間だ。