第12話 男子会?
「そうね、甘いものも少し欲しいかしらね、カルラ。」
「お酒は何種類くらい準備しますか?」
「そうね…。」
「準備はイングリット様のお部屋でよろしいんですね?」
お、ひと段落したから、ようやくイングリットとゆっくりお酒を飲めるのかな?
イングリットと侍女たちが、楽しそうに宴会の準備を始めているようなので、わくわくする。むふふっ。
ここまで、本当に忙しかった。
処分する貴族が多くて、さすがの陛下も渋った。
「ここで厳しくしておかないと、また同じことが起こります。」
頑として聞かなかった。
「・・・お前は…いいパートナーに巡り合ったようだな。」
ハンコを押しながら、陛下が笑う。お見通しでしたか…。
夕食後に早めに風呂に入って、いそいそとイングリットの部屋に向かう。お隣りだけど。寝間着姿にガウンのイングリットがほんの少し、ドアを開ける。
「あら?アンドレ?どうしたの?」
「え?」
「今日は私たち、女子会なの。急ぎの用なの?」
・・・女子会?
じゃあね、と目の前でドアが閉まる。
ええええええ???
とぼとぼと執務室に行ってみると、ディーと事務官達がまだ残務整理をしていた。
ディーはナメクジから復活して、元のいかつい大型犬に戻っている。
「ディー、ちょっと俺の部屋まで来い。」
「あ、はい。殿下。どうされましたか?」
「男子会、をやるぞ。」
「?」
*****
「お前なあ、エルちゃんとどこまでいったんだ?あ?」
もう、半ばやけ酒。
男子会のメンツは僕とディーと僕の侍従のローマン。
「ディー様は時々お二人で街までお出かけしますよねえ。」
ローマンは口元に笑いを浮かべながら、酒を飲んでいる。こいつは本当に強い。もっと味わえ。
「ぼ、僕とエルですか?この前は東区に新しいケーキ屋さんが出来たというので、そこまで行きました。エルは甘いものが好きなんですよ。」
は?
「その前は今評判だというカフェに行ってきました。パフェって言うんですか?アイスクリームにイチゴとかが乗っかってる奴を食べました。うふふっ。エルがとても美味しそうに食べるので、また行きたいとは思っています。」
「・・・・・」
「ダメだな。」
「ダメですね。」
「な、なにがですか!二人して。」
「でも、この前、手は握っていたぞ?」
「ああ。一番初めでしょう?よほど動揺したんでしょうね。こっそり護衛を付けていたんですが、その辺のカフェに入って何も話さずにもじもじしていたそうです。二人共。」
「な、なんなんですか?」
ローマンと頭をくっつけて話す。
「こういうタイプの人間に、遠回しの表現は通じませんよ、殿下。」
「そうみたいだな。それにしたって、18歳、しかも好きあっている同士、なんかあんだろ?普通。抱き寄せたい、とか。キスしたい、とか。あわよくばその先に、とか。」
「なんでも自分を基準に考えるのは殿下の悪い癖ですねえ。殿下はまあ…イングリット様に張り倒されるまでは押しますからねえ。カルラがこぼしていましたよ。それはそれで、やり過ぎです。」
「・・・・・」
ちらりとディーを見てみると、ほんわりとした顔で、甘いお酒を飲んでいる。おおかた…パフェの事でも考えているんだろう。
「エルちゃんの領地の件だけどな。あの子が20歳になるのを待って、結婚させて、その婿に当主になってもらう。」
「え?…ああ…そうですね。」
大型犬の耳が垂れる。
ローマンが、コップに注いだ酒をぐいっと開ける。
「つまりですね、ディー様、あなたが結婚なされば、あなたには爵位が付く。領地の経営をしながら宰相職は大変です。が、領地はエル様にお任せしましょう。エル様はその能力がおありでしょう?2年間みっちりイングリット様とカルラがしごきますから。」
「そうだね…ここでお前が怖気づくと、今度は本当に取り返しがつかなくなるよ?今回はたまたま、だからね。結婚相手があのクンツ子爵でなかったら、訪れなかった偶然だからね?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・それで、僕は、どうすればエルと一緒にいれますか?」
ダメだね。こりゃ。こいつ頭はいいんだけどねえ。
まあまあ、といいながら、ローマンとナメクジを見ながら酒を飲む。
不器用で正直な奴だ。まあ、だから信用できる。
あと2年か。