第10話 名簿。
「ご…」
「ご?」
「ご馳走することになっているので、エルをお借りしてもよろしいですか?」
「え?」
そういうと、さっきまではしおしおとしていたナメクジ男は真っ赤な顔で、エルと呼ばれた女の子の手を取って、さっさと部屋を出て行った。
・・・いやいや。奥手なんだか、なんなんだか…。
「うふふっ。面白いものが見れましたわね。」
「ああ。僕もイングリットとお出かけしたいなあ。」
「うふふっ。今回、結構な人数を処分しますから。それが終わったらね。アンドレアス。」
「はああああ。まあ、ディーのあの顔が見れただけで、良しとするか。」
イングリットが僕の頭を撫でてくれた。その手を取って、口づける。
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今回、片っ端から捕まえて見たら、ジグソーパズルみたいに完成した感じ?
元々はクンツ子爵が趣味で始めたメイドクラブ。小さい子供にメイドの格好をさせてご奉仕させる、というもの。女の子だけではなく、男の子もいた。はああああ。
秘密のクラブだから、会員のみなさんは口が堅い。
完全会員制。
メイドは子爵から金を借りたいろんなところの領民の子供たち。結局のところ、金を借りるぐらいだから、領民への税は限度ぎりぎり。払えない家の子供を連れていく。その子供たちを利子代わりに引き渡す。可愛い子はメイドクラブで働かせ、いまいちの子は下働きさせる。
困ったことに、この手の性癖を持っている人は貴族はもちろん、王城の事務官にもいたわけで…。遊ぶ金欲しさに、クンツ子爵に頼まれた、合格からほど遠いところの御子息をお持ちのお金持ちのために答案用紙の差し替えをする。今回捕まえて見たら、採用試験の責任者だった。協力した事務官は2名。クンツ子爵は、金と同時に弱みも握れる。なかなかうまく出来ている。
ライナー伯爵家も例にもれず、領地の子供を供していたみたいだね。
「メイドで使うとしか、聞いていない!」
そうは言っていたけど。ご本人がクラブの名簿に入っていたしね。
そこで…。長女がうっかり採用試験に合格すると、借金が払いきれなくなる伯爵は、一石二鳥を狙ったわけだ。
長女、エルフリーデが試験に落ちるように。そして、それが金になるように。
そんなことを考えていた時に、頭がお花畑のモーニカ嬢のことをエーリヒ経由で聞きつけたんだろう。
いやあ。不正に関わった事務官からクンツ子爵の名前が出てきたから、いきなり踏み込んだ。驚いただろうね。ひどい現場だったけど。名簿も手に入ったし。子供たちは全員保護した。
手に入った名簿で、今、大々的な処分を始めているところ。
大方、強制的に代替わりさせていくことになるかな。関わった当人は隠居。蟄居?
関わった家が多いから、みんな潰してしまうとこれまた一大事になっちゃうしね。
何人かの事務官はもちろん懲戒解雇。だけじゃ甘いよな?どうしようかな。
当のクンツ子爵家は人身売買やら、児童保護違反で取り潰す。本人は一生日の目を見ることはないかな。いや、甘いかな?労役でもいいか。
モーニカとアルミン家は…ただの親ばかみたけど、王室侮辱罪は実は結構重い。
分家筋から跡取りさせる。娘は修道院送り、甘いか?あいつは僕の大事な婚約者を、この女、呼ばわりしたからな…。
あとは…