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婚約破棄ですか?了解です!

作者: 文月みさご

先に投稿した作品【婚約破棄ですか?上等です!】と同じ世界観の作品です。この作品だけを読んでも大丈夫です。

【ここ、ジェムディア王国の王都では王立学園の卒業記念パーティーが開かれていた】


王立学園には十五歳から十八歳の貴族の令息、令嬢達が通う。

今年は第一王子殿下も卒業されるので、多くの招待客がお祝いに訪れている。


「サフィニア・コランダム侯爵令嬢!お前との婚約を破棄する!」


──華やかな会場に響き渡る不穏な言葉。


「あの声は第一王子のモルス殿下ね。婚約者がいるにも関わらず、最近はピンク髪の男爵令嬢と親しくしているとか…最低ね」


私、エスメラルダ・グリン伯爵令嬢は、幼なじみで婚約者のヘリオス・ドーラ伯爵令息にため息混じりにそう告げた。


「…エスメラルダ、不敬になるよ。人に聞かれたら大変だよ」


「平気よ、学園中が知ってるわ。秘密の恋とか盛り上がっていたのは本人達だけよ、ただの浮気なのに。成人するっていうのに、どこまでお花畑なのかしらね。殿下は二ヶ月後にはコランダム侯爵令嬢と結婚式のはずでしょう?」


「僕らは三ヶ月後だね…」


「そうね。ウェディングドレスがもうすぐ出来上がるのよ、楽しみだわ!」


「そうだね……」



なんて会話をしていたら国王陛下が乗り込んできてモルス殿下たちを叱りつけ、卒業記念パーティーは予定より早くお開きとなった。


私とヘリオスは同い年で十八歳。

ジェムディア王国では貴族も平民も結婚できるのは十八歳からで、私達も卒業から三ヶ月後に結婚式を挙げる。

私はグリン伯爵家の一人娘なので、いずれ私が女伯爵になり、ドーラ伯爵家の三男であるヘリオスが婿入りする事になってるの。


領地がお隣という関係で知り合って、家族ぐるみの付き合いで、婚約したのは私達が十歳の時。

友達の延長のような関係だし、貴族の結婚なので恋人同士のような甘い時間は無いけれど、私なりに良好な関係を築いてきたつもり。


……なんて思っていたのは私だけだったと、翌週のお茶会で思い知らされる事になる。


───◇─◇─◇───


ドーラ伯爵家で始まった両家のお茶会。それぞれの両親、ドーラ伯爵夫妻とグリン伯爵夫妻も揃った場で、少し遅れてやって来たヘリオスは勇ましく宣言したの。


「エスメラルダ、君との婚約を破棄する!やっぱり僕は彼女と結婚するよ!」


柔らかな飴色の髪と瞳の女性の肩を抱き寄せながら。

まさに青天の霹靂の私を筆頭に誰も声を出せず、使用人達も思わず動きを止めてこちらに注目。


…あ、お茶がカップから溢れるわよ…


耳が痛いくらいの静けさの中、最初に復活したのはお父様だった。

テーブルを叩きながら立ち上がり、


「はぁぁぁ!?何を今さらバカな事を言っているんだ!式まであと三ヶ月しかないんだぞ!?だいたいエスメラルダのどこが気に入らないんだ!言ってみろ!」


「そうだぞヘリオス!何が不満なんだ!?だいたい誰なんだ、その女は!」


ドーラ伯爵も続いたわ。

…あのお皿割れてないかしら…


「彼女はシトリン・レモネー、レモネー男爵の末の娘です」


「エスメラルダさま、ごめんなさい。わたしたち、半年前からのお付き合いなんです。ヘリオスさまの事は諦めて下さいね。ヘリオスさまは、あなたよりわたしと結婚したいんですって」


「……確かレモネー男爵が平民の愛人に産ませたという、あの?」


「そんな冷たい言い方をしないで下さい、母上。彼女の母親はレモネー男爵家のメイドで、レモネー男爵とは身分を越えて恋人同士だったんです。平民だからと先代のレモネー男爵に無理やり別れさせられたけど、その時にはもうお腹にシトリンが宿っていたんです」


「お屋敷を追い出されたママは下町でわたしを産んで育ててくれたけど、半年前に病気で亡くなって男爵のパパがひきとってくれたの」


『いや冷たいも何も結婚してないんだから愛人でしょう?』


この二人以外の皆の意見が一致したわ。


「それで?付き合い始めたその時点でおっしゃればよろしかったのではなくて?結婚式までそれほど時間がありませんしもうすぐドレスも完成します指折り数えて楽しみにしていたエスメラルダはどうなるのです?まさかあなた方このまま何事もなく自分達だけ結婚するおつもり?何様ですの?バカですの?ええ知っていますわバカですわね」


…お、お母様、息継ぎ無しで一気にそこまで。手にした扇子がミシミシいってるような気がするけど、きっと気のせいね。 


決して笑ってはいない目で、淡々と口にするお母様の様子に何とか私も落ち着いてきたわ。

さっきからシトリン様がお腹をなでている様子に嫌な予感がこみ上げるけど。


「ヘリオス教えてちょうだい。私の何が不満だったの?私達この八年、それなりにうまくやってきたと思っていたわ」


「不満なんてそれほど無かったさ。でも君と違ってシトリンはよく笑ってよく泣いて、くるくる表情が変わって一緒にいると楽しくて、僕まで温かい気持ちになれる。僕はシトリンのそんな所にどうしようもなく惹かれたんだよ」


「なら何故もっと早く言ってくれなかったの?今さら酷いわ。それに貴族令嬢は感情をあらわにするのははしたない、とされているわ。幼い頃から抑えるように教育されるのよ」


「わたしがヘリオスさまに教えてあげたの。政略結婚なんて間違ってるって!結婚て好きな人とするものでしょう?」


「シトリンに言われて気付いたんだ、確かに政略結婚なんておかしい、愛し合う二人が結婚するのが一番幸せだって!しかも伯爵になるのは君だろう?一生君に頭が上がらないじゃないか」


……ヘリオス、ずっとそう思ってたんだ、ショックだわ。私ったら一人で盛り上ってみじめね……


「それに最近になってシトリンが妊娠している事が分かったんだ!もちろん僕の子供だよ。こんなに嬉しい事はないさ」


笑顔で衝撃の告白に一同唖然よ。

ドーラ伯爵夫人なんて顔が真っ青で今にも倒れそう。


バキッ!

あっ、お母様の扇子が!


「…黙って聞いていればこの浮気野郎。うちの娘のどこがそこの小娘に劣っているというのです?二人揃って頭と下半身がユルいだけのお花畑ではありませんか!」


『黙ってない、黙ってない』


でもそんな事口に出せる勇者はこの場にはいなかったわ。それにお母様、なんだか言葉遣いが……いえ、なんでもないわ。


「スフェン……出逢った時を思い出すよ、素敵だ。惚れ直したよ」


「まあ、あなたったら、娘の前で恥ずかしいではありませんか」


見つめ合う二人、突然両親のロマンスが始まったわ。二人の過去にいったい何があったのかしら。


「すまない、エスメラルダ嬢、グリン伯爵、夫人も。まさか息子がこれ程愚かだとは思わなかった…婚約はこちらの有責で破棄という事にさせてくれ。もちろん慰謝料も支払う」


「本当にごめんなさい。三男だからと甘やかして育てたせいだわ。まさか不貞を働くなんて。しかも相手を妊娠させるなんて…本当に情けない…ううっ」


ついにドーラ伯爵夫人が泣き出してしまって、お気の毒でならないわ。


「ヘリオス!お前は伯爵家から籍を抜いて追放だ!!平民になってそこのアバズレとどこへなりと行くがいい!」


「父上何故です!?浮気ではなく、真実の愛ですよ?僕の運命の相手はエスメラルダではなくシトリンだったんです!それに平民になってどうやって生活しろと言うんですか!」


「ちょっとおじさん!?ヘリオスさまが平民ってどういうこと!?男爵家より贅沢できると思ったのに!話がちがうわ!」


「シ、シトリン…どうしたんだい?お腹の子に障るよ?」


「うるさいわね!あんたなんか貴族じゃなくなったらなんの価値も無いのよ!私だって貴族の血をひいているのよ?また平民暮らしなんてまっぴらごめんよ!」


「お黙りなさい!二人ともみっともない!ヘリオ…いえ、ドーラ伯爵令息、了解しました。お望み通り、婚約は今この時をもって破棄させて頂くわ。二度となれなれしく名前を呼ばないで下さいませ。二度と!気安く!声をかけないでちょうだい!!」


───◇─◇─◇───


こうして私達の婚約は破棄されたわ。ドーラ伯爵家からグリン伯爵家には多額の慰謝料が支払われ、私達はそれを資金にグリン領内の整備を進めた。

隣国から領内を抜ける街道を整備し、馬車が通行しやすくしたおかげで物資が多く行き交い、グリン領は発展したわ。

お父様はまだまだ若いけれど将来は私が継ぐのだし、気を引き締めなくてはね。


そうそう、シトリン様の妊娠は爵位が上の伯爵家に取り入る為の嘘だったそうよ。レモネー男爵は娘がまさか伯爵家、それも婚約者のいる令息をたぶらかしたとは知らなかったようで、話を聞いて卒倒したそう。


回復してすぐに我が家に謝罪に来たけど、慰謝料の話をし、肩を落として帰っていく男爵の後ろ姿に同情を禁じ得ないわね。元からちょっとアレだった頭髪がさらに……


シトリン様も貴族籍を抜かれて辺境の修道院に送られ、奉仕活動に従事するそうだ。


元ドーラ伯爵令息は身一つで伯爵家から追い出され、しばらくは我が家周辺をうろつき復縁を要求してきたわ。


「エスメラルダ!僕が間違っていたよ、シトリンの妊娠は嘘だったんだ。あんな女だとは思わなかった!やっぱり僕の運命の相手は君だったんだよ!なぁ、君はまだ僕の事を愛しているんだろう!?」


あまりにもしつこいので衛兵を呼んだら連行されていき、二度と姿を見ることはなかったわ。


「何故だい?エスメラルダ!エスメラルダ!お前ら離せ!僕は伯爵家の令息だぞッ!離せ~!」


「おいコラ!暴れるな!おとなしくしろ!」


………はぁぁぁ………なんて往生際の悪いこと。アレが元婚約者だなんて黒歴史だわ。

婚約者がいなくなった私に縁談がいくつも来ているってお父様が仰っていたわね。次はしっかり見極めなくてはね。


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[気になる点] 仮に本当の「真実の愛」だとして、伯爵家の三男と男爵家の末娘がどうやって生きていくつもりだったんだろう? [一言] 同一世界の物語なら関連性が低くても「シリーズ」にすると併せて読んでもら…
[気になる点] 文月みさご先生へ!この作品がスピンオフなら、すぐ前作が読める様に作者名をマウスでクリックしたら作品リストへ移動できるようにリンク先を設定してはどうでしょうか?
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