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幽霊屋敷で押しつぶす  作者: 鳥木木鳥
沈船村楽園神殿
55/62

巨躯

 祠が震える。

 初めて訪れた時の静謐さ、聖性はもはや「蔵記様」の祠からは微塵も感じない。

 もう隠しきれない程空気が澱んでいる。あの学園のように、あるいはあの銃の屋敷のように。

 さて、説得、話し合いって言ってもそもそも話が通じるのか、その点から始めないと。

「あの、沈船鱗さんですよね。私の言ってることわかりますか?」

「・・・・・・・・・・」

 無反応。怨霊の類ならまだ錯乱したものでもこちらの言葉は認識するのに。それとも他を取り込みすぎて意思も混じってるのか。

「園村さん、先刻あなたが操って私たちとそれに岬さんを襲わせた男性です。彼を今すぐに開放して下さい」

「・・・・・・・・・・」


 グチャグチャ。


 もうすっかり聞きなれた音が響く。

「今のは肯定ということ?」


「そのような訳がなかろう。世迷い事を宣うな」


 その声は祠の中ではなく、私たちが来た道の方から聞こえた。


 話しているのは先ほど宇羅が飛ばした子供。胴体が半分千切れた状態で、足を再生してここまで這うように追ってきたんだろうか。その口から、村に君臨してきた男は初めて私たちに語り掛けてきた。

「じゃあ、これ以上村の人たちをその身体に取り込んだり、岬さんの心に干渉するのを止めてください」

「それならば、民は我とひとつになることで、蔵記様を信仰することが出来る。それに何の不満があろうか」

「神様はそんな形での信仰を望んでいるのですか?」

「無論。何故なら私がそう定めた」

「じゃあ、子孫の精神を操るのは」

「沈船の人間は最も理想的な蔵記様の僕でなければならないからだ」

 理想的な僕とはどんな人間か。

 考えるまでもない。

「私の在り方、私の祈りこそが解答、理想形。ならばそれに近ければ近い程蔵記様の御心に最も叶う」

 赤子でもわかる単純な理屈だ。沈船鱗、村の始祖は断言した。


 虚飾は剥がれ、むき出しになったのは妄念。神を信じる自分こそが信じる神よりも尊い存在だという自己顕示欲。


「游理さん。ちょっと話しただけで相手のことを全部わかったように言うの良くないですよ」

「じゃああなたはあの男のこと、どう思うの」

「救いようのない独善馬鹿自己陶酔野郎」

 私とよりひどいと思うけど、まあいいや。兎にも角にも、他人を巻き込まないで欲しい。

「一応最後に確認しておきます、鱗さん。うちの社員を解放する気は」

「だから、そのような妄言を繰り返すな」

 こちらへと敵意を高めつつ、鱗、沈船の心臓は呆れたように言う。

「では交渉は決裂ということで」

「元より村の外の者に語ることはなし。私にとって意味があるのは神とこの村のみ」

 それ以外に世界があることを認めないし想像すら出来ない。沈船鱗、沈船村はそれ程までに閉じていた。

「ここだ。この世界こそが私の全て、私自身」

 沈船の屋敷を見て、それを巨大な生物と思っていた。でもそうじゃなかった。

 生まれた時からひたすら神に祈り続けるひとつの生物。沈船村こそが一個の生き物だった。それは怨嗟から生まれるものの在り方にあまりに似ている。


 沈船村。この地全体が一個の幽霊屋敷。


「お前たちふたりを排除することに憎悪も憤怒も要らぬ。これは病原菌に対するただの免疫反応だ」


 ズン!


 地面が揺れた。地震と思ったけど違う。重い音が響く。とてつもなく巨大なものが近づいてくる。何が。

 決まってる。


 ドズン!


 ここに心臓がある。自分を現世に繋ぎ止める楔を、無防備なまま放置する生き物がいる訳がない。


 ドズン!!


 村を越え林を超え。以前私たちを飲み込んだ屋敷、「沈船邸」は自身の核を守る為、ここまで這って移動して来た。

「・・・・!」

 団地の一室から生まれた蟲に潰されかけたことがある。

 校舎から羽化した蛾に爆撃された経験もある。

「だからって、手軽に怪獣を出してこないでよ」

 また滅茶苦茶な展開。藪蛇。私相手だとどれ程デタラメをやってもいいって裏で協定でも結んでるのか!?

 ナメクジは口を触手を出し、祠に絡みつかせた。

「まずいっ、心臓を中に入れる気だ・・・宇羅っ!」

「わかってます!」

 鉄骨を4本、槍のように発射し、宇羅は触手を断ち切ろうとする。しかし命中する寸前。


 グチャ。


 巨体から放たれた肉片により、その投擲が全て阻まれ、鱗は祠ごと悠々と屋敷の内部に入り込んだ。

 それだけじゃない。迎撃した肉片は地面に落ちるとそのまま動き出す。ほとんどは子供ほどの背丈、中には上半身だけの半端な状態で這って来るものもいる。人型じゃない、軟体としか呼びようのない肉の集団。ひとつひとつはさっきのより弱そうだけど、数が多い。しかもこの様子だとまだまだあのナメクジから湧いて出てくるんじゃないのか?

「游理さん」それを理解したか、さすがに宇羅も焦った様子で話しかけてきた。

「ここに居たらまずいです。移動しますか?」

「駄目。私たちが逃げたら、村に被害が出る」


 動きはのろいけど、この大きさで粘液まで分泌してる。避難が始まってると思うけど、こいつは村から離れたこの場所に留めておかないといけない。

「宇羅、『裏内屋敷』の落下、出来そう?」

「ここに来るまでいくつか内部の機材を消費しましたから、游理さんの薬をいただければ多く見積もって3発、それ以上は無理です」

 幽霊屋敷「裏内屋敷」を丸ごと投げつけて、標的を押しつぶす。これ程の巨躯を相手にするには、宇羅の出せる最大火力であるそれを連射するしか方法はない。

 一回落とすごとに屋敷全体を再生する必要があるので、宇羅の体力、精神力を極端に消耗するのが欠点。

 一応私の薬で再生を促進することは出来るけど、それも過剰に打てば自壊する。だから1発分ごまかすのがせいぜい。

 そしてどうやらあの屋敷は再生するらしい。今使った分の肉の穴はもう既に埋まっている。この様子だと3発では倒せないかもしれない。

 ドーピングは宇羅にかける負担も増大する。確実に仕留められる保証がない今回のような場面では、リスクが大きくて使えない。

「だったら初弾で表面に穴を空けて、内部に飛び込む。そして祠を、鱗を見つけて破壊する」

 呪符を投げて群がる小型軟体を払いのけつつ私は宇羅に方針を伝える。

「時間をかければ、防御を固められますし、確かにそれが一番確実でしょうね」

 石の柱で無数の肉をすり潰しつつ彼女も賛同した。

「では一気に道を作りますよ、『西塀』、併せて『東壁』」

 その言葉で出現した壁は、残った軟体物を左右に追いやる。そうして宇羅は目標の大ナメクジまで続く通路を形成した。

「ぎりぎりまで近づいてから、落とします。合図するので走って!」

 またこの展開。私の専門は祓いで怪獣相手にドンパチすることじゃないのに・・・


「『裏内屋敷』落下」

 沈船邸が変じたナメクジの頭上に出現した一軒家「裏内屋敷」

 最大高度から落ちてきた霊的存在の直撃を受け、ナメクジがのけぞってその場に停止した。身体には穴が開き、そこから例の灰色汁が垂れ流される。

「急いで、宇羅。もう再生し始めてる!」

 傷口は端から肉がグチュグチュと生まれてる、気持ち悪いな本当に。

「游理さんはここで待ってって下さい。わたしだけで行きます」

「大きいの出した後でキツいんでしょう?」

 1回だけとはいえ、発射とその後の再生はかなりの気力を持ってかれたはず。幽霊屋敷が回復能力を十全に発揮するには、その心臓が傍に居なければならない。

「だから私もいっしょに行く。今は少しでも宇羅の近くに心臓があった方がいいでしょう」

「游理さん・・・」

「へばってるあなたを放って置けない」

「ありがとうございます・・・でも、自分の身は自分で守ってくださいよ」

「当然。でもきっと宇羅の足引っ張るから、適当な所で助けて欲しい」

「・・・・・・・」

 ・・・私だって大丈夫って即答したいけど、そんな自信持てないから。

「ふ~しょうがないですね、游理さんはわたしがいないと、ポンコツが極まってるんですから!」

 ・・・何で微妙に嬉しそうなんだろう?


 そんな会話をしながら私たちは損壊部を乗り越え、沈船邸内部に足を踏み入れる。


 そこには異界が広がっていた。

この物語を読んで、面白い、人も人外も等しく残念な連中しかいないなど思った方は是非感想、評価をよろしくお願いします。

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