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幽霊屋敷で押しつぶす  作者: 鳥木木鳥
沈船村楽園神殿
52/62

一族

 何とか岬さんを村の病院に担ぎ込むことが出来た。

 医者の話では本来すぐに駆け込んでも助かるかはわからない程の重傷のはずだった。しかし何故か傷が塞がって出血も予想より少ない。

 だから幸い命に別状はないみたい。だけど傷口からの感染防止など、ここの設備で行えることには限界がある。

 もっと大きな病院に移送すべきだけど。

「今私がこの村を離れる訳にはいきません」

 岬さんはきっぱりと拒絶した。


「どのみちあの存在が大人しく彼女を外に出すとは思えませんしね。下手に動く前に守りを固めるべきです」

 宇羅はそう提案した。

 病院の待合室で、私は彼女とふたりで岬さんの治療が終わるのを待っている。

「こうしてる間にも園村さんが刀持って突っ込んでくるかもしれませんよ」

「怖いこと言わないでよ・・・でもありそうなんだよね」

 無関係の村人が大勢いるけど、鱗にとっては何時でも切り捨てられる存在なのかも。

 園村さんにそんな真似を絶対させられない。


「それで游理さん。伝えておきたいことがあります」

「何」

「先ほどの触手マンの飛び散った肉片をいくつか私の中に入れておいたんです」

「そんなものよく入れる気になるね・・・」

「それを軽く調べてみたら、どうやらあれは『杭打ち』や『狩人』とほぼ同じ存在だとわかりました」

 杭打ち、狩人。幽霊屋敷が外敵を排除する為に用いた器官。そしてこの村に幽霊屋敷が一軒ある。

「沈船の家。じゃああそこは既に鱗に支配されてたってことなの」

「そうです。祠の雰囲気が沈船の屋敷と似通っていたのも当然でしょう。あの家の存在の核があったのですから」

 グチュグチュ音が鳴り響き、肉塊が転じた異形が徘徊する領域。


「沈船鱗」

 この村の始祖、蔵記様信仰教団の開祖。

「そして幽霊屋敷『沈船』」

 あの肉の家。

「彼こそがその心臓です」

 幽霊屋敷「裏内屋敷」はそう断じた。


「岬さんが言っていた『声』、沈船家の人々が最後には傀儡になるというのも、幽霊屋敷の部品に変えられるのでしょう」

 部品。あの学園で、犠牲者たちが蠢く不死者になっていたように。

「死者じゃない、生きてる人間を?」

「はい、間違いありません」宇羅は躊躇いなく断言した。

「現に、祠の肉塊も村人を誘っては自身の内に取り込んでいる」

 精神干渉。

 家族以外の者は取り込んで自身の血肉にする。

 そして一族の人間であれば、自分に役立つ駒として操る。


「沈船鱗。心臓である彼の子孫を手足のように使役し、その他の村民は喰らう」

 この沈船村という地自体を、自分の為だけにあるもののように利用し尽くしている。

「それを345年間続けてきた幽霊屋敷。それが『沈船』です」

 何世代にも影響があるなんて、いきなり時間のスケールが大きくなった。そしてそれが本当なら迷惑過ぎる先祖としか言えない。

「もうひとつ。『沈船』の心臓は祠の中の沈船鱗なんだよね」

 だとしたら。

「少なくとも岬さんは大っぴらに沈船鱗に反抗してる。村も一族も完全に支配しているのに、身内からそんな考えが生まれる余地はあるの?」

 他の村人ならいざ知らず、自分の血族は生まれる前から完全にコントロールしているって考えられるのに。

「細胞でも一応自我はあるんですよ? 特に岬さんの立場は村長。外部との折衝もあるでしょうし、知性や意思が求められます。そこからバグが生じることもまああるでしょ」

「バグって、サイバーパンクかよ・・・」


「庚さん、裏内さん。これからどうしましょうか」

 矢継ぎ早に伝えられた情報を何とか消化しようと頭を抱えていると、治療を終えた岬さんがやって来た。

「一旦私の家に戻りませんか」

「それは避けた方が良いかと」

 幽霊屋敷云々は説明すると長くなるから、取り合えずあそこでは沈船鱗の影響が強まることだけ伝えておく。

「・・・そうですね。沈船の人間はあの家で生まれ、あの家に縛られる」

 沈船家、いやこの村自体始まりから神とひとりの男に縛られた世界だった。

「こうしている間にも沈船鱗がで私の精神に干渉して来るかもしれません」

 こうなったら安全の為にも岬さんをひとりにするべきじゃない、いっしょに行動しないと。

「それに、園村さんを放ってはおけないよね。何処にいるかわからないけど」

「では宿屋に帰りませんか? 部屋には持ってきた仕事道具もありますから」

 宇羅がそう提案する。

「わたしの中身を使って補強すれば、物理的な防壁だけでなく、思念も遮断することも出来ます

 幽霊屋敷の資材は、人に使えば傷を塞ぎ、霊を弾く力を持つ。

「少なくとも、ここでじっとしているよりは安全ですよ」

 この村の中にそんな場所があるんだろうか。そんなネガティブな発言を慌てて飲み込む。

「では行きましょうか、岬さん、宇羅。道中も警戒を怠らぬよう気を付けて」

 取り合えずそう言って私はその場を締めた。


 宿屋へ行く途中の道では、触手や園村さんに遭遇することはなかった。負傷している岬さんに合わせてややゆっくりとしたペースで私たち3人は歩いていた。

 雨は変わらず降り続いてる。

 この村湖の傍にあるんだよね。大丈夫かな・・・

亥頃いごろですか。心配する必要はありませんよ。私が生まれてから氾濫など起きておりませんので。ええ、《《そんなことはあり得ません》》」

 自信満々に岬さんは続ける。


「この村にいる限り、世界が滅びても皆さんはきっと大丈夫です」


 なら安心って思いたいけど・・・私の場合滅多にないことがバンバン起きるんだから。

「宇羅、何が起きたら、頼むね」

 上手く言えるかわからないけど、言っておく。

「はい。でも游理さんも頑張って下さいよ。気を抜くとわたしに頼りっぱなしになるんですから」

「善処します・・・」

「おふたりとも仲が良いんですね」

「ラブラブです」

 即座にそう答えるのやめなさいよ、恥ずかしいでしょうが。


「庚さんの指示通り、従業員の方々は私の方から申し出て、建物から退去してもらいました」

 体調が十全でないであろう岬さんはそれだけ言うと腰を下ろす。

「すみません。ご無理はさせるべきでないのですが、私からはなかなか言いづらいので」

「いえ、私の村の為ですから」

「・・・・・そうですか」

 村は自分自身だっていう彼女の価値観を知る前だったら、今のセリフも村長の鑑って素直に思えたのにな。

 宿の部屋の中。私は持ってきた道具を広げている。

 宇羅は部屋の外で建物を補強している。自分の身体の部品を取り付けるって考えたら無茶な行動。彼女の存在自体がとんでもないけどね。


「じゃあこっちも頑張らないと」

 あれから3人で今後の方針を話し合った。

 目標は沈船鱗の排除。

 だけどその前に彼を「説得」する。

 話し合いで終わるならそれが一番いい。岬さんは不満かもしれないけど、祓い師は殺し屋じゃないんだから。身内のゴタゴタに巻き込まれて手を汚したくはない。

 でも交渉が決裂して、沈船鱗が園村さんを解放せず、今後も私たちや村の人に危害を与えるというのなら、抹消もやむを得ない。

 村を支配する鱗を消す依頼をしたのは岬さん自身。ここまで付き合ってるのも、単に身の安全の為だけじゃなくその共犯だからという意味もあるのかも。

 もう人間の範疇じゃないけど、相手には「沈船鱗」という名前がある。

 ねじ曲がって狂い果ててるとはいえ、意思を持つ。

 その存在を消すことには、正直かなり抵抗がある。

 宮上さんみたいにオラオラって勢いで戦うか、それこそ園村さんのように喜び勇んで化外を消すようにならないと、メンタルがもたないってわかってるけど。

「ダメだ。ここまで来てグダグダ悩んでる。本当にこんなんじゃ家追い出されて当然か・・・」

 ついこぼしてしまうと。

「今さら何言ってんですか、游理さん。そうやって割り切れないのがあなたでしょうに」

 窓の外から返答された。

「宇羅、そんな場所からいきなり話しかけてこないで、心臓に悪い」

 いつのまにかレインコートを羽織った宇羅は、宿の2階に何か細工をしていた。

「すみません。何やら悩んでるようでしたから」

「・・・確かにそうだけどさ」

「中途半端な甘い人だから、あの狗の神を救い、銀の銃の決闘を見届けることが出来たのでしょう」

 迷いなく裏内宇羅は庚游理を肯定した。

 傍目には不審者以外の何者でもない格好で。

「いろいろと台無しなこと考えました!?」

「違うよ・・・でも宇羅」

「はい?」


「ありがとう。私だけだったら、こんな風に抵抗することもきっと出来なかった」


「・・・はい」

 ・・・何だか照れる。

「そ、それでどう? 上手く増築出来そう?」

「はい、問題なく」

 なら防御については目途が立った。岬さんには祓いの間ここに籠ってもらおう。

 あとは攻撃。心臓の位置はわかってる。でもこれまでと違って幽霊屋敷の中に入る必要がないのは救いか。

 心臓の沈船鱗が外にあって本当に良かった。またあの生き物の体内みたいな屋敷の敷居を跨ぐのはカンベンして欲しいからね。

 戦いになれば向こうは触手や人型の肉塊を使う。それに対しては今の所私のスプレーで十分対応出来てる。

 心配なのは園村さんの妨害。彼の相手は宇羅に任せて、その間に私が心臓を制圧する。

 単純だけど、それが一番確実か。

「園村さんは強いよ。宇羅行けるよね?」

「はい。例え先輩が相手でもこの裏内宇羅、幽霊屋敷として遅れは取りませんよ」



 園村砂。

 彼が外なる神とその眷属を祓うことに熱狂する理由を、この時私も宇羅も知らなかった。

 狂気の域に達してるその執念の強さを見誤った。

 その過ちの報いをやがて私たちは受けることになる。


 最悪の形で。

この物語を読んで、面白い、人も人外も等しく残念な連中しかいないなど思った方は是非感想、評価をよろしくお願いします。

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