銃と獣
「銀銃屋敷」
必勝でも必殺でもない、ただデタラメな攻撃。
意図も技術も策略もない、ただのヤケクソな銃撃。
だからこそ、本来それより格上の幽霊屋敷、確実に急所を射抜く正確な攻撃なら察知し防ぐ裏内宇羅の防御さえ貫通する。
無作為で、攻撃と防御の区別すらない千の銃撃は、
四方から撃ち込まれる千の必殺を偶然防ぎ、
千の防御の穴をたまたま通った数発の弾丸は
「確実に」必殺の幽霊屋敷を削っていた。
これが「銀銃屋敷」
これが化外を狩ることに特化した「銀の銃の屋敷」
その屋敷が目の前で、自分の家族を主を定めたのを見て。
「ああ負けてしまう、ああこの下が、いつも私の影にいたこの子が私を凌駕するのだと」
それを思い知って。
「嬉しかった。でも、私は負けられなかった」
だって。
「あなたが勝ってこの屋敷を手に入れたら、きっと私から離れちゃう」
「なら、私が勝って、そしてこの屋敷でいつまでもいつまでもあなたといなきゃ。それが道理でしょう!」
必勝、必殺。
必ず相手を倒して縛るという願い、怨み。
生まれようとする幽霊屋敷の中にあって、同じ時、同じ起源の屋敷を生みだすほど強い感情。
それを受けて俺は。
「そんな道理があるか、このメンヘラ束縛系社会不適合者!」
真っ向からそれを躱した。
そうだよ、俺は逃げ出したあの日から、ずっと絶えることなく躱し続けていた。
なら、いかなる狩人も殺意を込めた魔弾にも、俺が、この屋敷が破ることはできない。
「幽霊屋敷の隠蔽能力。惨事をなかったことにする。生まれたばかりの屋敷が持つ特性」
「ええ、この銀銃屋敷は生まれる前だったのでそれを持たないと思っていたんですが」
「実際には、ずっとそれは機能していたんだろ。2年前、下さんが逃げ出した時から。宮上下を宮上底から隠す、それだけに特化した隠蔽能力が」
「よく考えたら、屋敷から出た程度であっさり諦めるのも変ですしね」
多分正確には宮上底、及び彼女に協力して下さんを捜そうとする人間を対象に、存在を隠す、といった所か。
「下さんが使用人の人から腫れ物扱いされてたのも、そういう影響をうけてだったりして…」
「いえ、普通いきなりいなくなった屋敷のお嬢様が見るからに怪しい連中引き連れて剣呑なオーラ出して戻ってきたら、関わりたくないでしょ」
「…だよね!」
ええと、なんだっけ。そう。隠蔽、カモフラージュだ。
「でもそんなピンポイントで精密な隠蔽なんて、霊らしくないだろ。遠からず無理が出る」
《《だから、こっちから仕掛けた》》。
「あの人なら、まあそうしますよね、変に気を回すので」
「所長のこと? ねえ、何かあったの?」
「いえ、続けてください」
ま、いいか。大したことじゃないでしょ。
「それで今回の仕事が始まって」
「私も、ええ、必ずあなたと、決着をつけたいと願い続けていたから依頼をしたのよっ!」
叫びと共に、「必殺」が変容する。
魔弾からもっと直接的に、相手を圧倒して打ち負かす形に。
「だから私はここであなたを倒して縛ってだってだって!」
跳躍して、俺の懐に飛び込んでくるその腕は、まるで獣のようで。
「っち、ああだったら絶対に負けられないよなあああ!」
躱しながら見る。変容。必ず相手を倒す。銃のように不確実な方法ではなく、よりあからさまな暴力で。
《《人狼》》。
もう銀銃屋敷の模造品だった屋敷の面影はない。
「《《銀獣屋敷》》」
化外をまとう、「銀の獣の屋敷」
必中必殺の幽霊屋敷の本質はここに顕現した。
「悪いけど、これで俺の勝ちだ。宮上底」
単純な身体能力に加えて魔弾も同時行使できるとしたら、戦闘能力は桁違いに跳ね上がっているはず。
普通なら不利な状況だけど、でも。
「俺は、怪異や怨霊の類からは逃げ出したことは一度もないんだよ」
逃げて逃げて逃げて。
それでも。
仕事の中で遭遇する奴らからだけは逃げなかった。逃げずに。撃ち尽くし、祓った。
「だからここからはいつもの業務を決まりきった手順で繰り返して、撃って祓うだけだ、宮上底、そして『銀銃屋敷』」
銀銃屋敷の北館の中、
俺は幽霊屋敷『銀銃屋敷』を解放する。
そしてその直後。
地面の下から豪雨のように撃ち込まれる弾丸が館の全てが粉砕した。




