対話と開戦
銀銃屋敷、中庭の時計塔前で。
宮上底は宮上下を待っていた。
「庚は」
「当然無事です、人質云々は方便ですよ」
「別に縛ってほっといてもよかったと思うが」
「下。もう少し後輩に優しくしなさい。怖いからという理由で、何でもかんでも噛みつくのは悪い癖ですよ」
「底、あんたのそういう説教癖、本当に嫌だった」
「知ってる」
思い出した。確かあの日もこんな会話をしたんだ。
なら、一応そういうノリでやらないとな。
「無作為の幽霊屋敷『銀銃屋敷』その心臓、宮上下」
「必中必殺の幽霊屋敷『銀銃屋敷』その心臓、宮上底」
後輩の前で無様は晒せないから。
「敵を撃ち、祓う」
「敵を屠り、穿つ」
「だから、おまえは撃たれて祓われろ」
「だから、あなたが穿たれて縛られろ」
そして剪定は再び始まった。
「游理さん游理さん、無事ですか!」
「ええ、まあ気疲れはした…って宇羅、どうしたのそのケガ!?」
「ちょっとまあ、いろいろ読み違えちゃってそれで…」
あっさりいうが右手が千切れかけてる上、頭や胴体も悲惨なことになってる!
「大丈夫、これでも人外、幽霊屋敷ですし、下さんに修理、いえ治療をしていただいたので」
「そ、そっか、よかったーっ」
ハァー少し離れたらこれだよ。
この幽霊屋敷、心臓の心臓を止める気か?
これからは目の届く所にいるように言っとく…いやそんなこと言ったら絶対また調子に乗るだろうけど。
こんな残念な奴でも、恩人で仲間だし。
友達って…言えるかなあ?
「とはいえ、本当に下さんの幽霊屋敷が『必殺』だったら危なかったでしょうが」
必殺。「決闘に勝つ」という願いから生まれた屋敷なら。
宮上下と裏内宇羅、ふたりが時計塔で戦った狩人は必殺の幽霊屋敷の器官であり、その能力を持っていた。生まれたばかりの幼児が撃つ、ただ相手の急所を狙うだけの単調な攻撃など、それを想定して張っていた宇羅の防御を突破することは出来なかった。
「そこまでうまく行ってたんですけど、最後の最後に宮上下を心臓とする本当の『銀銃屋敷』が顕われて、おかげでこっちは格下相手に恥を曝したわけです」
「宇羅ってたまにナチュラルにマウントとるよね」
「あなたの口から性格を非難されると心が抉られますね」
宮上下の願いから生まれた真実の「銀銃屋敷」
その根源となる感情は。
「『破滅願望』でしょ」
「………」
「わざわざこんな、いっちゃんだけど辺鄙な場所にあるただ大きいだけの屋敷なんて相続しても持て余すだろうし」
それに、剪定決闘。一応ある程度加減、というか深刻な傷を負わないようにいろいろ配慮とかされていたそうだけど。
それでも。
「大好きな家族と戦うのは誰だって嫌に決まってる」
「………」
「だけど、話した感じだと底さんは下さんに相当厳しかったんでしょうね。まあ行き過ぎた愛情か、独占欲かそんな機微はわからないけど」
「………」
「勝つ勝たない以前に、宮上下は、やる気がなかった。だけど宮上底は彼女がわざと負けることも許してくれない」
「………」
「おまけに幽霊屋敷なんて得体のしれない力が流れ込んできた」
特別下さんが適性があったとか、その辺は情報がないから語れない。
多分底さんが言った「屋敷に選ばれた」というのが真相だろうし。
「下先輩はそんな進退窮まった状態だった。私だったらそんな時願うのは」
「『自分がどうなってもいい、何もかもから逃げ出したい』随分な願いね、下!」
中庭を破壊しながら、西館に雪崩れ込む。くそ、こんなとこまで、あの時と同じか。
わたしは霊やら相手をぶちのめすのが仕事なんだ、こんなまともな戦いなんて管轄じゃないんだ。
「あんたがそんなスパルタだからだ! この家も、何もかも捨てたい、面倒くさいって普通思うだろ!!」
「決闘の時、あなたが屋敷に選ばれたのを知って、どれだけ私が絶望して喜んだかわかる?」
「ごめん、さっぱり想像できない」
背後から撃ち込まれる弾丸。
その射線上にたまたま別の弾丸が割り込み、弾く。
「游理さんってコミュニケーション能力が壊滅的にアレなのに…そういうところが…」
「なんなのさ、その表現。傷つくな」
あと当然のように人の気にしてることを言わないでよ。
「…まあいいです。あなたがやればできる人だってわたしは知ってましたし」
「微妙な上から目線なんなの」
「それで、下さんは大丈夫でしょうか。ただでさえこの屋敷は正常な駆動を開始したばかり、能力を確かめる時間も十分になく、おまけに仕方ないとは言え十全な状態ではないだなんて」
そういうことか。
宇羅、きっとあなたは入ったばかりで知らないでしょうけど。
「心配要らない。だってあの人は『亜江島祓い所』その数少ない実働部隊で最強の戦闘能力をもつ宮上下なんだから」




