沈黙と宣告
「…………」
「…………」
重い。沈黙が重い。
北館、底さんの私室。
その中心で、私は彼女とふたりきり。
何を、何を話せばいいのかわからない。
実はさっきまで内心あなたを黒幕と疑ってました。
実は騙されてここに連れてこられたんです、私も被害者なんです。
そんなセリフ言われたら、速攻相手を殴りたくなるな。
先輩と同居人が中庭で怨霊を討伐している時、コミュ力不足で詰んだ女。
「下は」
「うひゃい!」
「は?」
「失礼しました、宮上様」
鬱々してる所にいきなり話しかけれたら普通は奇声が出るよね、うん自然なこと、そう思い込もう。
「下は普段どんな様子なのですか?」
「宮上…下さんが、ですか」
「いえ、所長さんから連絡があり、貴社への依頼を決めてから、何かと慌ただしくてそのようなことをきく時間もなかったものですから」
依頼があった、とは言っていたが、宮上底の方から依頼してきた、とは言ってなかったな。
所長…もしかして私が思ってるより嘘つき?
そしてトリガーハッピー先輩の顔で見つめられると無駄に緊張しますよ、こっちは。
「…まあ、宮上さんは優しくて仕事に熱心な先輩ですよ」
ついうっかり異界の邪神を召喚しても何とかしてくれる優しさに、そんな邪神にハイテンションに後先考えずに突撃銃撃する熱心さ。
…ごめん先輩。よく考えなくても私のせいで苦労かけてる…あなたの身内には絶対言えないですが。
「ええ、下は熱心に祓いの仕事をしているのでしょう、必ずそうだと思っていました」
「熱心すぎる時もありますがね…そうだ、下さんって昔どんな人だったのかきいていいですか?」
「私とは正反対でした。臆病でいつも私の影に隠れていて、ええ、今と全く変わらないですね」
臆病? あの戦闘狂が、今も?
「幽霊屋敷、惨劇と怨霊を生み千の死をもたらす生物・・・その程度の存在のせいで、あの子が私から2年も離れたなんて、不条理、道理に合ってないですよね。必ずあの子は私の傍にいて、必ず私はあの子の傍にいる。それが正常。あるべき世界なんです」
宮上底。
心臓が逃げ出したあと、生まれる寸前の屋敷の中で彼女を待っていた女性は、狂気も悪意も感じない口調のまま淡々と話し続けた。
「ええ、わかっています。あの日私から下を寝取ろうとしたこの唾棄すべき狩人の幽霊屋敷を骨の髄までバラバラに解体するんですよね。必ず、必ず」
「はい、まあそれは可能な限り、努力して、お客様にご満足いただけるような方向で、はい」
「ちゃんとあの子が受けてくれるように、こうしてあなたを、人質としているのですから」
「あの、今何と」
「ええ、感謝しています」
「私は護衛役のつもりだったんですけど」
ヤバい。
この人、ヤバい。
口まかせに適当に相槌を打って、なんとかこの会話を穏便に済ませようと、なけなしのコミュ力を振り絞る。
なんだこの状況。
「まあ、ここまでお膳立てしていただいた以上、私も然るべき誠意を見せなければなりませんね。そうでなくては必ず不義理の誹りを受けるでしょう。」
「謝礼の件につきましては、所長の方に通していただければ、その、一介の所員である私の管轄外ですので…」
その目に私の姿を映しながら、まるで芝居のセリフを読み上げるように、目の前にいる私を微塵も見ていない宮上底に、私、庚游理はただ無意味な言葉を返した。
待て、サラッととんでもないこと口走ってなかったか、この人。
「ですので、ここからは私、宮上底による必滅の幽霊屋敷『銀銃屋敷』が惰弱で愛しい宮上下の破滅の幽霊屋敷『銀銃屋敷』を、必ず解体してご覧に入れましょう」




