上昇と対面
円状の外形の銀銃屋敷。
図面によればこの屋敷は東館、西館、南館、北館に別れていて、さらに入り口の門は南西に位置している。
その中心部、時計が取り付けられた鉄の塔。そこが怨霊「狩人」の巣らしい。
「じゃ、庚。おまえ待機な」
「ええ、彼女もいっしょじゃないんですか?」
「新人その2。こいつの体質はわかってるだろ。
藪蛇体質。引き当てる敵が悉く強くなる、攻略難易度強制上昇の呪い。
「今さら遅いって思うだろうが、こいつの戦い方は周りへの被害が大きすぎる」
庚の武器、スプレーで噴射する薬品は、怨霊を強制的に成長させる。
例え再生能力を持っていようが自分自身の細胞に押しつぶされれば耐えきれる霊もいない。
問題はその過程で必ず暴走状態になるということ。いくら効果的な武器であっても、相手が潰れる前にこちらがやられちゃ元も子もない、だから切り札。切れない札。
「使用人は全員。今日の日没までにここを退去している。今この家には俺たち3人。それに、あいつだけだ」
あいつ。宮上底。
依頼人がわざわざ残る必要はないと庚は説得していたが、なぜか残ると言い張って結局そのまま。一応最低限の安全策として自室から出るなとは言い聞かせたそうだ。
「なんで残るんですかね? 火事場泥棒の真似でもすると思われてるとか・・・私たち信用できないんですかね?」
私たち、というのは余計だろ、誘爆女。
問題は俺だけだ。
宮上底。足手まといにしかならないのに、わざわざあいつが残る理由はひとつ。
俺、宮上下がいるからに決まっている。
「なんにしろ、護衛役は必要だろ、その狩人をオレと裏内が祓う間、屋敷で底を守る役が」
庚ほど護衛に向いていない能力はまずないが、最低限の知識はあるだろ。
それに、この銀銃屋敷、宮上の城が怨霊を生み出すなら、その標的は俺に決まってるからな。
時計塔内部。
円筒の壁に沿った螺旋階段の突き抜け構造、霊の騒ぎの前も滅多に人が入らなかった場所だけに、灯をつけ最低限の明るさを確保しても薄暗く足元も覚束ない。沈んだ空気は俺が出奔する前から全く変わってないんだろうな。
「なんでわざわざ夜に入るんですか?」
「夜でないと相手が出にくいだろ。さっさとこっちを襲ってくれないと困る」
「まあこんな辛気臭い所で張り込みなんて・・・ああごめんなさい、ご実家でしたね」
「…別にいいよ。俺もそう思うし」
辛気臭い。空気が澱んでる。
「この家変だろ。主を決闘で決めるとか、ふざけた数の銃だったり」
「…はい」
武器を構え、階段を上る。最上階の部屋へ。
「祓いの道具を扱う宮上、だから他の誰よりも怨みを引き付ける。この家はそれを怖がったんだ」
「怖がる…?」
怖がる。自分たちが討った怨霊を怒れる。
「まあ、自然っちゃ自然な感情だけど、なまじこんなに財産があるだけに、いろいろ徹底して家訓やらを決めちまったんだ」
まともな加持祈祷程度では足りないほどの祈りで呪いを征服する。
「例えば自分たちの業を銃という型にはめ、その象徴としての屋敷を建てる。さらにその主を実際に血を流すことで決める」
決めるため闘う。
「傍から見たら無意味な手順でも、実際にこうして今もその結実、銀の銃の屋敷が健在なら意味がある。そんな理屈だ」
たどり着いた時計塔最上部。木製の扉の向こうに奴がいる。
「そういう訳で、そんな幼稚な理屈に乗って、祓い師にして主のなりそこないが、おまえを祓って撃ち抜くから」
俺は振り返って、背後に現れた影を撃つのと同時、《《予想通りに》》扉を貫通してきた弾丸を避けた。




