食事と意図
名前がわからない高級そうな肉料理の味がわからないくらい、部屋の雰囲気は沈んでいて、つられてこっちの気分も下降し続けてる…帰りたいよぉ…
「とりあえずあなたがグルメ漫画を描くことはないとわかりました。あとすぐ職場放棄するその癖、いい加減どうにかしてください」
またなんでも口に出してるこの人外…
でもそんな軽口に癒されてしまうほどに重かった。
沈黙が。
宮上下はいつもと全く違う無表情のまま、黙々と食事をしていた。
宮上底は微笑んだまましかし何も話さず、黙々と食事をしていた。
「………………」
「………………」
「宇羅、ここはひとつ、小粋なジョークをお願い」
「その振りで何を言っても滑るに決まってるでしょ」
「必ず」
2年前と変わらない表情で、底は口を開いた。
「必ずあなたは戻ってくるとわかっていました、下」
「俺は戻って来たくはなかった、底」
あの時。
剪定儀式。
《《屋敷の主を候補者同士の「決闘」によって決める》》という時代錯誤甚だしい儀式で。
「俺は完膚なきまでにおまえに敗北して、逃げ出したんだ」
「ええ、戦いに勝利したのは私です、ですがあの儀式の勝利者は下姉でしょう。だってこの銀銃屋敷に選ばれたのですから」
選ばれた、選ばれてしまって。
「だから逃げ出したんだろ、俺は責任からもこの家からも、そしておまえからも」
逃げて逃げて逃げて、そしてあの所長に拾われた。その日から今までただ祓い続けた。祓って祓って。
家族を振り払うために。
「まあ、手のかかる後輩その1、その2の面倒を見るためにいけしゃあしゃあと帰ってくる、中途半端な真似をしたんだけどな」
「いいえ、言ったでしょう。何があろうとも最後には必ずこの家に戻ってくると確信していたと」
「っ…底。相変わらずだな。人の話を聞かないし聞いているふりすらしない」
「下は変わらず臆病ですね。人の目を見てまともに話を聞くこともできない」
臆病者。そんなこと、わかってる。わかっていてもどうしようもないんだよ。底。
俺は怖くてたまらないんだよ。この家も、家族も。
「あの、そろそろいいですか? 姉妹の再会に水を差すようで恐縮ですが、そろそろ本件について情報共有ないし今後の行動の打ち合わせを行いたいのですが…」
いい加減こっちの方も見て欲しい、仕事が進まないから。
「ええと、依頼人、宮上底様。あなたから伺った内容をまとめると、あなた方宮上家は祓い師専門の武器を扱う一族」
まあこのあたりは一般に知られることだよね。
「この銀銃屋敷はその象徴であり、館自体が武器である」
多くの銃を景観を無視して飾っているのも、銃で埋め尽くせば屋敷自体が銃になるという無茶な理屈が理由らしい。
…いや、それは無理があるだろ。だったら切手マニアの家を手紙に貼って配達してみろって話だよね!?
いかんいかん、いちいちツッコミ入れてたら時間がいくらあっても足りない…
「その武器、銀銃屋敷に最近になって怪異が現れた。しかもその辺の魍魎の類ではなく、その怨霊は屋敷の中から出てくる、と」
まあ普通に考えてこんな怨霊への殺意で組み上げられた場所に近寄る奴はいないだろうけど。
殺意、悪意でできた場所から生まれる怨霊、祟りはある。
怨霊を生む存在、幽霊屋敷。
「その発生源を取り除く、つまり銀銃屋敷の中から幽霊屋敷銀銃屋敷を排除する。そのような理解でよろしいでしょうか」
「異論ありません」
「後、最初におっしゃってた『狩人の幽霊屋敷』という意味は・・・?」
「ああ、問題の怪異、と言うより怨霊ですが、その外見からです」
怨霊。あの学園で出会った杭打ちのように。
「適当に暴れまわっては消える、そんなことを繰り返しているのでお恥ずかしい話ですが使用人にも手に負えないようでして」
「それでも、人に被害が出ていないなら幸いですよ」
「場所はどこです?」
打ち合わせが始まってから初めて宇羅が口を挟んだ。
「中庭の時計塔です。そこから度々屋敷の中に侵入しているようでして」
時計塔? 個人の家だよねここ。遊園地かなんかなの?




