エピローグ 落下する少女
吹雪の向こう側。
巨大な影が咆哮していた。
「園村、あれは」
「イエティか」
「ビッグフットじゃなかったのか」
ふたりとも何を言ってるんだろう、
「ヒバゴンに決まってますよ、アレ」
「それはない」
「それはないな」
有名なのにな、ヒバゴン。
「うぇんでぃご、ですよ」
と。
白い服に身を包んだ幽霊屋敷が断言した。
「突刺山山頂部に建つ山小屋」
右腕に鉄の槍を形成しながら、解説を続ける。
「23年前に閉鎖されたその小屋では春夏秋冬、季節ごとに必ずひとりが消えたそうです」
また絶妙に厄っぽい話だ。
それじゃあまるで。
「《《人身御供》》。行方不明者は山に住まう神に捧げられた、という噂が広まり、とうとう閉鎖することになったその小屋の奥の部屋。そこには、《《人間のようで人間でない骨》》がいくつも散らばっていたそうです」
咆哮と共に投げつけられた巨大な頭蓋骨を躱しながら、
彼女はその屋敷の名前を告げる。
「突刺山山頂、能面小屋。数百の命を喰らう幽霊屋敷の心臓が、あのうぇんでぃご。理の外の神のような何か、です」
「いきなり話が大きくなった! いつものことだけど!」
藪蛇気質
あの夜から、仕事で幽霊屋敷に遭遇することが多くなった。
ここは怨霊に満ちた世界。
何度もそれには遭遇していたのに、私は気付いてなかったのかも。
でもあの夜、宇羅、彼女と出会ったことでそんな全てが型にはまった。
幽霊屋敷という型に。
あれから所長は裏内宇羅、幽霊屋敷という存在について宮上さん、それに園村さんにわかっていることを全て教えたらしい。それでも特に態度に変化がないのは、こんな世界で生きた怨霊の塊、なんて驚くようなことではないからか。あるいは自分たちも似たようなものに心当たりがあるからかも。
結局他の人たちがどこまで知っていたのか。
適当にカマかけてもうやむやにされたが、案外私が自分で宇羅を選ぶことが本当の入社試験だったのかもしれない。
幽霊屋敷の彼女を。
「何か、じゃなくて対処方法、弱点かなんか知らないの!?」
「すべきことは決まってますよ、我が心臓、まずはわたしたちが上に飛んで」
言い終わると、
幽霊屋敷は私を招き入れた。
「外なる法の神もどきに、取るに足りない人の怨嗟をぶつける」
そして。
「幽霊屋敷で押しつぶします」




