第13話:魔王様と女騎士、今代の参謀役四天王を追跡する。(引き続き〘メリュ視点〙)
…さて、早速洞窟へと足を踏み入れたわらわ達は、ジャンヌ殿やアーサー殿の先導で罠を回避、或いは破壊しながら進んでおる。
流石に気を引き締めたのか、2人は先程までのバカップルっぷりはなりを潜め、騎士らしい精悍な雰囲気へと変貌しておったのじゃ。
『アーサー君、この罠はわたしが転移させるから転移先で次元斬して処理してもらっていいかな?』
『お易い御用だよ、ジャンヌ。』
「最初からそうやって真面目にしていれば優秀だし尊敬出来るのだけどねぇ?」
『…今は真名覚醒状態である夢魔聖女の【ジャンルールヌルリッチ】だもの、わたし。
普段はカモフラージュも含めて理性を敢えて削ぎ落として【淫靡なる夢魔】な性格にした“アレ”なわたしだから申し訳ないけれどね?』
『ハハ……今代の四天王が相手だからこそ、僕も本気で、聖騎士の【アークサーディナル】で行かせてもらっているからね。
僕は一人称以外はあまり変わらないかな?』
ちなみに。
【真名覚醒】とは言うものの、別にわらわ達魔族の真名は特に秘密でも無いし、知られたとしても別にデメリットなぞ無いのじゃ。
ゆうなれば…そうじゃの、魔力の節約と日常生活においては無駄な力の抑制、なのじゃ。
ジャンヌ殿の場合は、別の理由もあるみたいじゃがのぅ……?
「それにしてもジャンヌ殿は性格が変わりすぎじゃがのぅ?」
「アタシや魔王様は変化が少ない方だしねぇ?」
そう言うリリカは普段の凛々しくも可憐な雰囲気とはうってかわり、妖艶かつ豪胆、と言った雰囲気に変貌しておる。
体付きも華奢に見えて芯の強い者、から豊満で力強く見える身体へ変貌しておる。
…言うてお主の方が大概じゃがのぅ?
わらわとしては普段のリリカの方が好きなのじゃが……
「…しからば、わらわも真名覚醒しておくべきかの。」
「良いんじゃないかい?相手は離反したとは言え四天王になれた実力者だ。
警戒しても損は無いよ魔王様。」
「うむ。
ならば………[【メリュリュヌューテ】ココニ顕現セリ]。
……一先ずこれでコレで良かろう。
改めてグスタフの奴の元へ参ろうぞ皆の者。」
…妾とて今代の魔王。
真名覚醒すれば幼子では無く一時的に大人になれるのじゃ。
恐らく未来の妾の姿だとは思うのじゃが、妾も姿が変貌する故、大概じゃのぅ。
…ともかく、離反した四天王のケジメは付けねばならぬのじゃ。
全く。知略のグスタフが聞いて呆れるわ。
お父様が亡くなったとは言え、早々に離反するとはな。
そうして彼奴を追い、洞窟の奥まで来ると奴の姿が消えてもうたのじゃ。
と、ここでジャンヌが思案顔で地面に描かれた魔法陣を見つめる。
ちなみにこれは妾達魔族の中でも上位に位置する実力が無いと感知出来ぬ代物じゃな。
『…アーサー君。
魔法や魔術を利用した隠し通路、だよね?コレは。』
『僕もそう思うよジャンヌ。
だからここは僕が先行しよう。』
『うーん……だけどわたしね、ものすごぉく罠の予感がするの。
悪魔の感がそう言ってる。』
そう言って今度は難しい顔になるジャンヌ。
対するアーサーは真剣な顔をしつつも雰囲気は柔らかいまま。
どうやら罠をあまり重く捉えてない様子じゃのぅ…?
『罠…か…どうする?
僕なら大抵の罠を『次元スキル』で無効化出来るはずだけど。』
『……万が一失敗したとしても、わたし達はリト君に再召喚して貰えるし、メリュ様達はアスクレピオス様が治してくれるとは思うけれど…だとしてもヤダなぁ……?』
『そうかい?なら………久しぶりに【夢魔の福音】を頼めるかな?』
『うん。わたしもそうしようとおもってたの。
それじゃあいくよ?アーサー君。
メリュ様とリリカさんも良いかな?』
『ああ。』
「うむ。」
「やっとくれ、ジャンヌ。」
『では……魔法陣展開!魔力装填![あらゆる災厄を代わりに受ける映し身よ!!【夢魔の福音】]!!』
【夢魔の福音】。
これは妾達の身体に“幻術でもう1人の自分”を纏わせてあらゆる状態異常や死を1度だけ回避する代物じゃ。
ジャンヌの場合、死して夢魔【ヌルリッチ】へと堕ちる前は聖女としてのスキル、即死攻撃や気絶攻撃を無効化する【女神の福音】を所持しており、
夢魔化した際に相手を精神汚染して堕落させる【悪神の虚言】に変化し、
アーサーと出会い、彼に愛されて彼を愛して、愛を思い出したジャンヌが魔族へ進化して夢魔聖女【ジャンルールヌルリッチ】へ成った時にこの【夢魔の福音】へと変化したそうじゃ。
普段のジャンヌがその夢魔、【ヌルリッチ】としての側面らしい。
優しい【ジャンヌ】としての演技で油断させて近付き、淫夢で堕落させて精気を吸い取る夢魔。
上級悪魔として、人間への復讐心から聖職者を主に狙い、その精気と聖気を吸い取り続けた事で悪魔にして神聖な空気を纏う悪魔聖女と成ったジャンヌ。
そんなジャンヌだからこそ、聖気の力で自分を取り戻せたのかもしれないのぅ…?
閑話休題。
ジャンヌの福音により妾達の身体には神聖なる加護が宿る。
うっすらと幕のようなものが見えるのじゃ。
そして、アーサーは加護を確かめる様に妾達の身体も見回してから声をかけてきたのじゃ。
『よし。
これなら全員で魔法陣に乗っても大丈夫だろう。
行くよ、皆。覚悟はいいかい?』
「うむ、往くぞ皆の者。」
『はい…!』
「おうさ!」
そして、転移魔法陣を抜けると……?
「グガァァァァア!!!」
『ふむ、コレもまたお約束、かなぁっ!!
顕現せよカリバーン!』
『…!〖以下省略〗!!【ディフェンサー】【レジスト】っ!こうなる予測もしてましたが!!
略式なのでもう一度フル詠唱してかけ直します!!』
「了解!!時間稼ぎはアタシとアーサーに任せな!!」
目の前には巨大な魔獣…こやつはキメラワイバーン、かのぅ?
竜の翼、蛇頭の尾を持つ双頭の鰐。
そんな魔獣を前にしてもこ奴らは騎士として怯むことなく剣を換装し、魔法障壁を作り、抜刀し、それぞれ動き出した。
勿論、妾とて魔王。退く訳にも、幼子の様に怯んで泣く訳にも行かぬ。
「ならば妾は…!ジャンヌ!【コインのⅨ】なのじゃ!」
符をジャンヌに向かって放つ。
コレは張り付いた者に来る物理攻撃を1度だけ弾くものじゃ。
「リリカには【ワンドのⅢ&Ⅶ】!アーサーには【ワンドのVI】と【カップのⅦ】じゃ!受取れぃ!!」
ワンドのⅢは物理攻撃力の上昇と回避の力、
ワンドのⅦは物理と魔法攻撃両方の上昇と恐怖をねじ伏せる勇気。
ワンドのVIとカップのⅦは一時的な強化、なのじゃ、が、
アーサーにワンドのVIとカップのⅦを使った時のみ別の反応を起こしおる。
それはー
『ありがとう魔王様!
受けよ!エクス!カリバーァァァッ!!』
アーサーの剣、【カリバーン】が輝ける剣、【エクスカリバー】へと一時的に進化する、と言う訳じゃ。
その一撃は双頭の鰐の頭を片方切り落としたのじゃ!
が、これは一撃のみの超絶強化なのじゃ。
更にはコレにはデメリットもあってのぅ…
『っ!ふぅ……また折れたか………
そう。
エクスカリバー化すると【カップのⅦ】のデメリットにより強力な一撃を放った時に折れて消滅してまうのじゃ、じゃが…!
「アーサー!受取れぃ!!【ソードのⅠ】!!」
『重ねてありがとう!!』
エクスカリバーは初手奇襲の一撃。
コレで倒せなんだ時には予備の剣として妾の符から飛び出す剣を渡すのが、普段の桜花隊長との連携。
アーサーも問題なくこなすあたり、やはり桜花隊長の御先祖様じゃのぅ………
ちなみに、折れたカリバーンは仕舞っておけばしばらくしてから直るそうじゃ。
「ハァァッ!っく!魔王様!こいつァちと骨が折れそうだ!!」
むぅ…!リリカは妾にとっては1番の部下。
腕前も力量も信頼しておるし次代の四天王としては申し分無いはずじゃ。
しかしながら鱗が硬いこやつ相手では分が悪いやもしれぬ。
このような手合いなら槌や魔法で内側に衝撃を与えるべきじゃからな……
「ぬぅ…!強化したリリカでもか……ジャンヌ!!」
『ー集え龍脈!我等の腕に更なる力を!!【ストレングス】]!
私もここまで【ディフェンサー】【レジスト】【スピーダー】【ストレングス】を皆にかけた!!
今からはわたしも出るからーねっ!!』
むっ!?
ジャンヌも剣で戦うのかぇ!?
しかも、可愛らしい見かけによらず鋭い一撃じゃのぅ!?
ジャンヌはオルデン神官長と瓜二つな御先祖様とは言え、さすがは女騎士じゃな!
…いや、正確にはオルデン神官長が先祖返りなのじゃろうが…
ともかく、魔法支援中は旗を振るい鼓舞していたジャンヌが獲物を剣に変えて斬り掛かる!!
そこで入れ替わる様にリリカが下がってきたのじゃ!
「こうなりゃやっぱ魔法だな!アタシは魔法だって得意なんだ!!
2人が居るからしっかり詠唱して特大に放ってやる!!
すぅ…[紡ぎしは雷/鋭く響け/咆哮せし龍の顎/駆けろ/駆けろ/貫き駆けろ/我が名はリリエンカリス/汝が龍を統べる者/征け!!【ドラグ・サンダーシュート】]!!」
リリカの雷魔法、じゃな。
龍の形をした雷が駆け、残った方の頭へ噛み付く。
そして穿たれた牙から彼奴の身体へ電撃が迸る!!
ちなみに、アーサーとジャンヌは当然の様に察して退いたから巻き添えにはなっておらんのじゃ。
………強過ぎないかの?古の四天王とは言え。
そして、キメラワイバーンは……?
「グルルゥ…!」
「まだ生きておるのか…しぶとい奴じゃのぅ…?」
「チッ。グスタフの奴には逃げられたなこりゃ。」
『……仕方ない。とにかくここは君達生者を生かして帰すことに注力するよ。』
『だね、流石に魔物を構えられるとわたし達だけじゃ、勝てなくは無いけど時間がかかりすぎだよぅ………追跡は失敗、だね………
「すまねぇな魔王様…アタシが言い出したってのに…
「反省会は後なのじゃよリリカ。切り刻め!【ソードのⅩ】!!」
妾の符から10本の剣が飛び出して無くなった方の首へ殺到する。
それは杭打ちの様に連続で突き刺さり、内側から彼奴を貫通した!
更に皆が後に続く!
「略式!【サンダー】!」
『略式、【スターレイン】…!』
『ハァァァッ!!』
「ガッ!ァァァ…………
リリカの掌から迸る一筋の雷、ジャンヌが旗を振るうと降り注ぐ光の☆、トドメにアーサーの剣による一閃。
それで、終わったのじゃ。
『………ふぅ。よし。とにかく、先を急ごう。』
『そうだね。』
「魔王様、まだ走れるかい?」
「無論じゃ。今の妾は魔王メリュリュヌューテぞ?」
言うが早いが奥に向かって駆ける妾達。
が、やはりその先にあった部屋はもぬけの殻。
めぼしい物も何も残っておらなんだ………
くぅ……!
素直にリトを呼ぶべきじゃったか!?
「………残念だがまた振り出しだな、魔王様。
魔力の残滓もここで途切れてる。」
『更に転移魔法陣を起動したみたいだね。
ご丁寧に一方通行かつ1回のみみたいだ。』
『はぁ…嫌らしいねぇ…ソロモンさんもそう言う面があったけど、そのグスタフってヒトは相当じゃないの??』
「むぅ……とは言えグスタフも良い所はあるのじゃぞ?」
「そうだねぇ、アタシ達魔法剣士隊にも魔法を教えに来てくれたりしていたからなぁ、グスタフ魔法師団長も。」
『聖騎士モード、解除。
…まぁ、仕方ないかな。戻ろう、皆。
私が殿を務めるよ。』
「たのんだぞアーサー……[魔王は再び眠りにつく]…ふぅ。
では帰るとするのじゃ!」
「[状況終了、アタシは納刀する。]
………何だかモヤモヤしますけど仕方ないですね。
メリュ様もお疲れ様でした。
魔王様であるのに付き合わせて申し訳ございません。」
「なに、気にするなリリカ。わらわとお主のなかじゃろう?」
『夢魔聖女モード解除。
…はてさてぇ〜♡反省会はぁ〜♡帰ってからですよぉ〜♡♡』
「…お主のその通常人格、分かってはいても気が抜けるのじゃ…
確実に主犯はグスタフ師団長である、ということがわかった以外にこれと言った成果もなくイマイチな結果に終わってもうたのが何とも気にかかるが、
わらわ達はアルカディア城へと帰るのであった……




