閑話:リシャルド国王陛下とアイリーン王后殿下
一方その頃、国王夫妻は…………?
勇者レン殿が死んだ。
その報が私にもたらされたのは唐突だった。
そも、その数時間前にリト殿から勇者パーティーをクビになったとの報を受けていた。
私は己の失策を悟った。
あの4人の子女は潜在的な実力はあるものの性格に難ありな為、矯正の為に魔王討伐の旅に出したのだ。
それがレン殿の取り合いとなり、
お目付け役であるリト殿への怨みとなり、
あまつさえ大切な勇者であるレン殿へ無理矢理迫り、
リト殿を殺害しようとする始末。
あの4人は知らなかった事だが、
リト殿はただの平民では無い。
……………………リト殿は、先王の実の息子。
私の腹違いの弟、なのだ。
そして我が最愛なる妻、アイリーン……アンの従弟……でもあるのだ。
だが、それは…………今は亡き我が父と、アンの母君の従姉の許されざる裏切りの証でもあった。
故に、厳重に、厳重に、隠され、リト殿は孤児院で親の居ない平民として育ったのだ。
何故それを私が知っているのか、と言えば我が父が亡くなった後、偶然見つけた父の手記に残してあったからなのだが、それは私しか知らない。
母も知らずに亡くなった。
それで幸運だったのかもしれない。
父は、アンの親戚に一服盛られて一晩共にしてしまったのだから。
父の不運は国王陛下であるが故にお手付きは問題にならなかった事だ。
アンの親戚は強かにも父の種を奪い、子を成した。
それをネタに父を脅した故の私とアンとの婚姻ではあるのだが、
アン自身はとても素晴らしい女性であった。
つまり、リト殿は私の実の弟でありアンの従弟と言う、とても不思議で複雑な経歴を持つ平民なのだ。
そして私達は王としては若過ぎる故に、
今、実質的に国を動かしているのはアルカディア王国三大公爵である
宰相のバンバルディア公爵、
魔術師団長のウルフェン公爵、
そして騎士団長のハーレスト公爵だ。
だが彼等は腐った貴族ではないから信頼出来る。
一族の特性として生真面目だからね彼ら公爵家は。
………今回勇者レン殿と共に亡くなった4人の少女の内の1人が、アンの親戚…姪でありリトとは半分血が繋がった実の妹、であった。
が、それはリト殿は知らない事だ。
やはりアンの生家は信用出来ない。
アンは生家では冷遇されており、半ば私達王族へ売られる様に嫁いで来た。
奴等は王族との縁で旨い汁を啜りたいだけで大変な政治には関わりたくないという典型的クズ貴族だからね。
奴等にとって可愛い娘である、アンの妹ばかりを可愛がっていた。
妹も姪も人間としてクズだ。
甘やかされてワガママに育ったからね。
アンが王后として苦労している傍らで王后の妹として贅の限りを貪るクズ。
そんなアンの生家を粛清するまであと少し……
そんな矢先に来たのがこの訃報だ。
アンも実の息子の様に可愛がっていたレン殿が亡くなり、塞ぎ込んでしまった………
『だから私はレンやリトを勇者として旅に出すのは反対だったのです!リトはきっと今回の事で心に傷を負いましたわ!!』
と私に恨みがましい目を向け、直ぐにハッとして
『ごめんなさい、あなた…大好きなあなたに八つ当たりだなんて……………わたし…………わたし…………しばらく、そっとしておいて下さい………』
と言い残して部屋に閉じこもってしまった…………
大切な我が妻をここまで追い詰めるなんて………許さないよ……ラミネス侯爵家め………
それにリト殿の事が気に掛る。
リト殿も実の弟の様にレン殿を可愛がっていた。
そんなリト殿が何故素直にパーティーから追い出されたのだろうか?
リト殿であればレン殿を連れていくし、逆にレン殿がついて行くはずだ。
…そこには何か別の思惑があるのではないだろうか??
私もアンもリト殿の事だって弟として可愛がっている。
そんなリト殿を追い出したあの4人は最早救いようが無いと思っていた矢先の訃報。
4人には重罰を与えるつもりではあったが、まさか、死ぬとは………
何処までも私達をコケにしてくれたね、あの小娘共め。
私のアンを裏では【お飾り王后】だとバカにしていた事も知っていたよ?
【王族へ売られたラミネス侯爵家のお荷物令嬢】だとラミネス侯爵家が風潮していたのを真に受けてね。
実際は器量良しで能力も高く絵に描いたような良妻賢母だ。
………何せ、ラミネス侯爵家では奴隷の様に働かされ、雑用を引き受けてきた訳だからね。
だからこそ、勇者パーティーで奴隷の様に働かされていたリト殿も気にかけていたのだ。
「…ローナは居るか?」
「ーここに居ります、我が主。」
ローナはアン付きの専属メイドである狐の獣人だ。
………表向きは。
その実、王族付きの【影】の1人、シノビの者だ。
普段のメイドとしての彼女は小麦色のふんわりとしたロングヘア、愛嬌のある翡翠色のタレ目でよく笑う可愛らしい狐耳の少女ではあるからね。
シノビである時は無表情となり冷徹に仕事をこなす。
擬態は完璧だ。
私が王宮内で信用出来る数少ない人物である。
「今すぐリト殿を迎えに行なさい。
可能であれば彼の英霊達も。」
「承知しました。マスターの護衛は?」
「アンの護衛も同時に出来るかい?」
「リト様への迎えを式神に任せて良いのであれば可能です。」
「……ふむ。君はアンに付き添ってやってくれ。
今のアンを癒せるのは君だけだろう。
それに、これ幸いとアンを暗殺しにかかる輩も居るかもしれない。」
「承知しまーおや、どうしたの、スザク。」
『ピギィィッ!』
(リト殿からの謁見申請があったから持ってきた。)
「…我が主、そのリト様の方から会いたいとの連絡が来たそうです。」
「なるほど、実に良いタイミングだ、こちらの準備は出来ていると伝えなさい。」
「承知しました。………行け、ビャッコ。
リト様に城へ来ていただきなさい。」
『ガウ!』
(任せろ!)
視点変更→アイリーン
「レン………
レンはわたしにとって本当に息子の様な存在でした。
まだ、わたしとシャルの間に子供は居ないから、余計に。
そんなレンが、死んだ………?
従弟の……実の妹より弟をしてくれていたリトが追い出されたから………?
あの二人の仲の良さはわたしも知っています。
きっと、リトはレンが居ない所でやられたのでしょう。
優しいリトが、レンを見捨てるはずが無いですから。
リトもきっと、苦しんでいるはず。
姉として、王后として、わたしはしっかりしないといけないのに…………!
リト……リト………わたしの可愛い弟………
姉は貴方が心配です………!
わたしとシャルは何時だって貴方の味方ですから…!
早く帰って来て下さい………姉に……貴方を抱きしめさせて下さい………………
レン………ごめんなさい…………不甲斐ない母でごめんなさい………貴方を戦地に向かわせたくなかったのに……………ごめんなさい……………ごめんなさい…………………………
コンコン
……誰でしょうか………?
「お母さん、ローナだよ…?」
「ローナ…!入りなさい……!」
「お母さん。」
「ローナ…
私は部屋に入ってきた私の専属メイドで娘の様に可愛がっているローナをぎゅっと抱きしめました………
彼女のふわふわの狐耳やふんわりとした尻尾にはいつも癒されます。
明るくコロコロと笑うローナに、2人きりの時は〖お母さん〗と呼ぶ様に頼みました。
最初は恥ずかしがっていましたが今は慣れた様ですね、嬉しい限りです。
そんなローナを抱きしめながら、わたしはポツリポツリと話します。
「レンが、レンが………亡くなったそうです………
「うん……ローナも聞いたよ…?」
「………ローナ…わたしは。 弱いですね。
こうなるのを分かっていてレンを旅に出してしまったのですから。」
「お母さんは悪くないよ!」
「いいえ、母が弱かったからいけないのです。
わたしは、王后である前にシャルに愛され、シャルを愛する一人の女性です。
わたしが、アンとしてシャルに頼めば………
「お母さんっ!自分を責めないで!!
悪いのはお母さんでもお父さんでもないっ!
リト兄さんを追い出しちゃった人達だよ!!」
「わたしはあの人たちとレンを一緒に行かせるのが間違いだと知っていたんです。
リトが一緒だとしても、リト1人ではやはり無理があったんです………!!
リト………あぁ……リト…!
きっとあの子は、苦しんでるはずです!!
はやく抱きしめてあげなくては……!!」
「お母さんっ!!」
わたしが部屋を出る為に立ち上がろうとすると、ローナが見た目に反して力強くわたしに抱きついて引き止めます。
…身体が全く動かせません!?
「落ち着いてお母さん!!
どうやってリト兄さんを探すの!?」
「っ…!」
「落ち着こう…?お母さん。
リト兄さんはきっとすぐに帰ってくるから……
「……ありがとう、ローナ…。」
「うん…今は待とうよ、お母さん……
(それに、ローナは知ってるよ、レン君は生きてるんだって。
だから、泣かないで、お母さん。)
「ローナ……うっ…うぅ…………
(リト兄さん、貴方は、こんなにも心を痛めて泣いているお母さんにまで秘密にするつもりですか?
だとすれば、ローナは貴方の敵になりますよ………リト兄さん……!!)




