年齢制限ゲームは指定の年齢を越えてから
未来の年齢制限ゲーム、ちゃんと厳しく管理しないと面倒な事になりそうですね。
「よし……インストールが完了したぞ。 サービス開始は今日なんだから、急いで始めないとな」
近未来。
電脳の仮想世界へ自身の5感もろとも飛び込んで、現実さながらの体験が出来るようになった世界。
そんな未来でも、現代と変わらないものがある。
それはゲームと呼ばれる娯楽だ。
現代ではコントローラーなどの操作端末を手にして、画面を見てゲームのキャラクター等を操作して遊ぶのだ。
だがこの未来では違う。
一応仮想世界の中で同じように遊ぶゲームもあるが、この時代ではゲームする当人がゲームの中へ飛び込んで、ゲームのキャラクターとなって遊ぶ物なのだ。
それで冒頭の思春期男子は、遊ぼうとして新しいゲームをゲーム機に入れていた。
この時代のゲーム機は、現代のヘッドマウントディスプレイ装置に似ており、だが画面を目の前に映し出す機能は無い。
まるで夢を見るように、ゲームプレイヤーの体に5感と併せて映し出す。
そして彼がインストールしたゲームは《人妖大戦》と言うタイトル。
平安時代をメインとした和風ファンタジーゲームで、人と妖怪との争いを主題とした大規模多人数プレイヤー同時参加型オンラインRPGである。
人は職業で種類を。 妖怪はそもそもの種類でバリエーションを用意。
人では対妖怪の専門家とも言える陰陽師や、掘った落とし穴で人外の者を倒せる検非違使、僧侶や鍛冶屋や武士など他にも多数。
妖怪では、餓鬼を始め妖怪図鑑に載るモノから地獄の獄卒どもまで、様々。
妖怪には所謂進化に相当する《昇格》システムがあり、妖怪の姿だけで簡単に対策されないような仕組みとなっている。
人も妖怪もそれぞれが超常の力を持ち、個性たっぷりに暴れまわれる。
そう言ったモノ達から1つの種を選び、自分の体として動かし、人なら人の妖怪なら妖怪の生息圏を拡げるべく奮闘する……設定。
そんなゲームだが、プレイするのに年齢制限が有った。
しかも20歳以上。
ゲーム好き達は、残酷表現がリアルで過激なんだろうと理解を示す。
お分かりだろう。
こんなゲームは、若者……特に思春期男子なんてイチコロだ。
やりたくなるに決まってる。
しかも思春期真っ盛りと言えば、反抗期。 いくら子供の為となにかを注意しても、聞いてくれない時期だ。
だから年齢制限と言う壁を破ってでも、プレイしてやろうと奮い立つ。
「オレのゲーム機にオヤジのネットアカウントを入力。 年齢制限なんて意味ねーよなw」
良くある手段だ。
もちろんこの《人妖大戦》を買うのも父親のクレジットカードからで、その内バレるのだがそこまで考えない。 その無鉄砲さが若者の若さ故の特権だ。 過ちとも言う。
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ゲームを起動して、早速キャラクタークリエイト画面。
彼は以前から調べていて、どうするかは決めていた。
「種族は牛頭。 ソレ以外はランダムだ」
牛頭。
馬頭とセットで語られる事の多い、地獄の獄卒だ。
雑な説明をすれば、牛の頭を持った地獄の看守みたいなもの。
筋骨隆々。 背が高く全身筋肉で、いかつい金棒を持って地獄の亡者どもを追いかける絵が有名。
どうやら彼はその物理能力で、暴れまわる姿を夢見ているらしい。
力 イズ パワー の言葉通り、己の腕一本を頼りに暴力でのしあがるロマン。
だが、そこに思春期特有の持病も地味に混ざっていた様だ。
「種族以外はランダムで、ランダムでしか手に入らないスキルとか手に入れて強くなっちゃったり、ランダムで大失敗してもそれが怪我の功名で大成功に転じたり……そう言うのって格好良いよなぁ。
最終的に野良のラスボスとか言われたり、ハーレムが出来ちゃったり……ぬふふふふ」
………………訂正。 かなり混ざっていた様だ。
「さて。 チュートリアルはパスして、さっさとゲームを始めてスタートダッシュだ!」
彼は反抗期。
チュートリアルなんてものは体制側の施しだと捉え、それを嫌ってしまう若さ。
1度しか受けられないチャンスを不意にして、自らの失敗に気付けたはずの機会を蹴り飛ばして、彼はゲームを始めた。
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ゲームを始めてからしばらく。
彼は悪夢の中に居た。
「なんでワタシがこんな目に……」
今いる場所は、おざなりな修繕が目立つ壁の古びた四畳半の部屋。 障子は閉めきりで、外の様子は見えない。
中央にあまりキレイと言えない布団が敷かれ、その枕元には何とも言えず微妙な甘い香が焚かれている小鉢がある。
それと部屋の照明用に、部屋の闇をロクに払えない、あえかな火のついた灯台が隅に一本。
他に部屋に置かれているのは、引き出しが2つ3つばかりある化粧用の小さなタンス位。
そんなボロ部屋で、俯いて両手で顔を覆っても、何も変わらない。
両隣の同じ間取りの部屋で女性の奇妙なうめき声が聞こえても、彼の心は深く沈むばかり。
遠くで夜の犬の遠吠えが聞こえるが、そんなのでは何一つ変わらない。
彼は下着代わりのサラシと褌姿で始まりの街に降り立ち、まず女牛頭になっている事に気付きパニック。
自身の姿がランダム選択で女性になっているとは知らなかったのだ。
しかも牛頭と言いながらも、ケモ度が最小値の爆乳ウシ角コスプレ少女の見た目をしていた。
牛頭で夢見ていた憧れのキンニクのキの字すらどこにもなく、その筋肉と呼べない肉は、胸と尻に集まっている。
下を向いても見えるのは余分な脂肪で半分は視界がふさがれ、足なんか全然見えないし、姿見みたいに全身が確認できる場所で確かめればその脂肪はヘソ上10㎝前後の弩迫力。
濃い茶褐色のボブカットでつぶらな瞳の少女は、まるでジャージー牛みたいな印象。
チュートリアルを飛ばしていた為に基本的な事を何も知らず、誰ともパーティーを組めずにまたパニック。
ニヤついた男性型プレイヤーは寄ってくるが、胸ばかりに目が行くし、肩とか腰とか尻とかにすぐ手を伸ばそうとするから、思春期男子として気持ち悪くなり逃げ出す。
そのまま街を出て敵と戦い、戦い方を知らぬまま倒され続けてまたまたパニック。
少し落ち着いたと思ったら「こんなに困っているのに、大人達は誰も助けてくれない!」なんて街中で喚きだし、運営側のノンプレイヤーキャラクターが出動したりして、街が小さなパニック。
拘束されてGMのお説教部屋へ放り込まれ、散々叱られてゲーム終了させられそうになった所で、誰かの陰謀が発動してデスゲーム化してゲーム全体がパニック。
ログアウト不可となり、生き抜くために未履修と聞き出したチュートリアル(ただの講義)をGMから受ける段階で、拒否。
さすが反抗期。 GM=体制の回し者 と嫌悪して、助けなど借りんと大暴れ。
大人は誰も助けてくれないと言ったばかりなのに、実際に助けようとすればコレである。
それでも大人のGMは、プレイヤーデータをGM権限で閲覧し、せめてスキルの効果だけでも説明すると宣言。
ランダムで得たスキルでは中途半端過ぎてなんにも出来ないと言われて彼(彼女)は大ショック。
GM達が手を貸して新しいスキルを得ようと誘ったものの、反抗期が邪魔をして生意気&横柄な態度をとり続けて、ついに放され現在となる。
「ワタシはなんで、こんなゲームを始めちゃったんだろう……」
差し伸べられた全ての救いの手を弾き、流れ着いたのは場末の《男女がカネで逢瀬を重ねる宿》。
なにも出来なくとも見た目だけは良い少女が働くなら、ここしか選択肢は残らない。
そこで躾られ、今は一人称がワタシとなっていた。
“彼”がゲームから帰還するまで、実に2年。
その間に現実の体は動いていない上に栄養は点滴からだけだったので、正視するのに勇気が要るほど痩せ細っていた。
彼がゲームの中で女性として過ごしていた為か、健常と言える肉体を取り戻す頃には胸がなぜかふくらんでおり、体つきが見事に女性となっていた。
だが男性を主張する部分もちゃんとある。
子供を産める器官が体に無いものの、強烈な体験をしてこびりついた地味にとしての体の感覚は、カウンセリングを続けてもいつまでも消えなかった。
退院しても、彼がデスゲームとなった成人指定のゲームで遊んでいた話は地域では有名で、寄ってくるのは大体の事情を知っている者ばかりで、嗜虐的な目で見てくる怖い人ばかり。
そうなれば人間不信になってしまうのも不思議ではなく、実際に非常に内向的な性格へと変わってしまう。
生涯、彼であり彼女でもある人物は、自身の性自認に悩み続けたと言う。
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以上、年齢制限があるゲームを、その年齢未満の子がやっちゃいけませんよ。
今はフルダイブじゃないからこんな事になりゃしないけど、未来でこんな悲劇(むしろ自業自得?)があるかもね?
って話でした。
んで、どうなんでしょうね? 実際のところ。
仮想世界で異性として長いこと居たら、リアルの肉体になにか変化が有るんですかね?
性同一性障害の方なんか、異性の体をもって生まれて、心の性別に近付くように行う適応手術でしたっけ?
それをやっても、定期的にホルモン注射が必要とかどうとか。 うろ覚えだから間違っていたらすみませんが。
それなのに高々リアルで数年の間向こうに居ても、どれだけ仮想世界で苦労や苦痛を受けても、女性である認識を押し付けられても、リアルで変化が起きるとは思えないんですよねぇ。
ホルモン分泌量が変化して、バランスが異性のに変わる~なんて都合の良いことが。
まあ実際のところは分からん。 としか言いようが無いんですが。