表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

6私の子供は、この小娘だけ

アリスがいなくなってから、一年が経った。

母は初めのうちは不気味なほど優しかったが、時間が経つにつれてだんだん元の厳しい性格に戻って行った。

「メアリー、あなた、悪魔と一番近い距離で接していたわよね?」

「いいえ。私は悪魔なんか見たことないわ。アリスのお世話は、してたけどね」

メアリーが間髪入れずに答えるのを瞬きをせずに見つめていた母は、あからさまにため息をついた。

「あら、そう…じゃあ、私たち、ここでお別れね」

「…へえ、出て行ってくれるの?」

「冗談はよしなさい。あなたがいなくなるのよ」

母の言葉が終わるのを待たずに、外から人が歩いてくる音が聞こえた。

ガチャリと扉が開き、豪華なドレスを着た女性が中に入って来る。

「クリスティン・レイグルスよ。我がわざわざ小娘のことを迎えに来てやったのだぞ」

「はい。大変申し訳ございません、リジーア様」

女性、リジーアの後ろには白黒の服を着た執事やメイドがたくさんいる。

「それで、この小娘だな?」

「そうです。役に立つかどうかはわかりませんが…もしいらなかったら、送り返していただけますか?」

「ふん。そんな面倒なことをする意味はない。不要であると判断すれば我が処分する」

リジーアはにやりと口元を上げた。

「フローラ、こやつを連れていけ」

「かしこまりました」

メアリーを一人のメイドにあずからせ、リジーアは先頭を立って歩き出そうとした。

「そういえば、クリスティン」

「何でしょう」

「四年ほど前、クリスティン・レイグルス様が妊娠された、といううわさを聞いたが、それは事実か?」

「……ただの、噂です。私の子供は、この小娘だけですわ」

アリスの存在を否定し、母はリジーアに頭を下げた。

再びリジーアは歩き出し、その後ろに使用人たちが続いて行った。

最初、メアリーは抵抗しようかと考えたが、あきらめた。

そんなことをしたら、どんな目にあわされるかわからない。

…こうして、九歳の少女、メアリーは売られていったのだった。


屋敷で働き始めて、かなりの時間が…七年が経った。

メアリーも十六歳になり、ベテランのメイドとして扱われるようになった。

仕事もうまくこなせたので、リジーアに気に入られ、いろいろな人がメアリーに憧れた。

彼女自身は、大して楽しくもない屋敷の生活に飽きていた。

優しい先輩、フローラも二年前に屋敷を出てしまった。

…そんな退屈な生活は、幼い少女がやってくることで終わった。

「メアリーよ、今日からこやつがここで働く。ここの説明は任せたぞ」

「はい、わかりました」

メアリーが手招きすると、少女はとことこついてきた。

「初めまして、私はメアリー・レイグルス。あなたは?」

「わ、私はミールといいます。よろしくお願いします、メアリーさん」

少女、ミールはぎこちなく頭を下げた。

「…」

メアリーは、ミールをどこかで見たことがあるような気がした。

そう、アリスによく似ているのだ。

くりくりの目、肩までのびているきれいな髪。

なぜこんなに似ているのだろうか?


その後、メアリーはミールに屋敷を案内した。

「ありがとうございました、メアリーお姉さま!」

「ええ、どうい…お姉さま?」

「はい。メアリーさんは、とってもしっかり者で、憧れちゃうので…だめ、ですか?」

「いいえ、ぜんぜん大丈夫よ…むしろ、うれしいくらい」

メアリーはミールに笑いかけるのだった。


「あ…めあ…あり…」

目まぐるしく脳内に流れ込んでくる情報に、理解が追い付かない。

「アリスちゃんは…いなくなって、メアリーお姉さまも、売られて…」

ミールは頭の中を整理し、徐々に冷静さを取り戻していった。

「そっか…アリスちゃん、もう…それに、メアリーお姉さまも売られてきたんだ…」

メアリーが妹のことを教えてくれなかった理由が、やっとわかった。それに、

「…メアリーお姉さまの言ってたあの子って、アリスちゃんのことだったんだね」

なんでアリスと似ているのか、それはミールにもわからない。

しかし、アリスと似ていると思われても、悪い気はしなかった。

それは、憧れのメアリーに妹のように思ってもらえているということだし、何より、私がお姉さまの…

「あれ?私、何考えてるの?」

私がお姉さまのなんだというのだろうか。

まるで、自分ではない誰かが自分の中でしゃべっているようだ。

「まあ、わかんないんだし、いっか」

謎の誰かのことは置いておくことにしよう。

さて、これで水色の球には触れ終わった。次は、黄色い球に触れればいいのだろうか?

「水色がメアリーお姉さまの記憶…じゃあ、黄色は誰かな?」

ミールが少し考えていると、

「次は、私…」

という声が聞こえてきた。

「この声は!」

しかし、次の瞬間、ミールの手は黄色の球へ引き寄せられていった。

「あわっ、あわわわ!」

謎の力によって自動的に球に手が触れ、ミールは暗黒の中に意識を引きずられる。

暗黒の中に誰かが現れて、にこりと笑った。

「ずーっと、記憶に浸っていればいいんだよ」

嬉しそうな誰かの声が聞こえたのは、気のせいだったのかもしれない…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ