4不思議な世界
メアリーは、屋根裏部屋へと続いていくはしごを登って行った。
「あうぅー」
「さあ、今からご飯をあげるね」
赤ん坊はミルクをおいしそうに飲み始めた。
母は一日に一回しかミルクを渡してくれないのだが、メアリーは母がいない間にこっそりミルクをつくっている。
赤ん坊がかわいそうということもあるが、一番の理由は本当においしそうに飲むからである。
そんな妹の姿を見るのが、メアリーは好きだった。
「よし、今日からあなたの名前はアリスだよ!」
「だだあぅ!」
それから三年が経ち、アリスは三歳になった。
メアリーはやはり執事がつくった食事をアリスの元へ運んでいる。しかし、それだけでは明らかに足りていなかった。そこで、
「…今日からは、自分の部屋で食べるわ」
「…?は、はい。では、食事を運ばせていただきます」
「いや、運ぶのくらい自分でできるわ」
「いえ、しかし…」
「いいの」
メアリーは自分の食事を部屋へ運ぶふりをして、屋根裏部屋に持って行った。
そして、アリスと一緒に食べたのである。
「おいしい?」
「うん。とってもおいしいよ!」
今度は自分でクッキーでも焼いて、持って行ってやろうと、メアリーは思った。
それ以外にも、メアリーはアリスのためにいろいろなことをした。
自分の服をアリスでも着れるように少し縮めて、持って行った。
それに、母がいないときは風呂にも入れてやった。
「ねえ、お姉さま」
「なあに?」
風呂から出てきたアリスは、ワンピースのしわをきれいにのばしながら、メアリーに尋ねる。
「どうして、お姉さまは私に優しくしてくれるの?」
「それはね…」
メアリーはアリスの頭を撫でた。
「あなたが素直でいい子だからよ」
「素直で、いい子かあ…」
アリスは、それはそれは嬉しそうに微笑んだのだった。
だんだん目の前が明るくなってきた…。
次の瞬間、ミールはあのまっ白な世界に戻ってきていた。
目の前にあったはずの球は、跡形もなく消えている。
「メアリーお姉さまには、妹がいたんですねえ」
妹がいたなんて話は、聞いたことがなかった。
いつもは自分の事でも屋敷のことでも、何でも話して聞かせてくれたメアリーが、自分の妹のことは今まで一切話してくれなかったことが気になった。この理由も、次の球に触れればわかるのだろうか?
「…」
ここは本当に不思議な場所だ、とミールは思った。
まっ白だし、謎の声が聞こえるし。
本当に、あの謎の声は何だったのだろうか?
聞き覚えのない、やけに機械的な声。
助けてあげて、というのは誰のことなのだろう?
人なのか、動物なのか、なんなのか。
「…考えてても、何も変わりませんね」
ミールは、次の球に触れた。
…また、目の前が暗くなった。