3また、説明を
「お母様!」
少女、メアリーとその父は、急いで母に駆け寄った。
その横では、赤ん坊が寝ていた。
「…女の子だったみたいよ」
「じゃあ、妹だね!こんにちは…?」
勢いよく挨拶をしたメアリーだったが、赤ん坊の左の頬を見て、首を傾げた。
そこには、星と月の絵が描かれていた。
「お母様、これなあに?」
「生まれた時から、ずっとついていたわ。…この子は、悪魔の子よ」
「悪魔だと!?この子は、君の子だろう!?そんなこと言ったら、かわいそうじゃないか…」
父の言葉に、母は全く共感していない。
母の目には、赤ん坊への恐怖のみがあった。
「とにかく、これはあんたが運びなさい」
「運ぶって…そんな言い方!」
「運べと言っているの、ロベルト」
父は母の鋭いまなざしに押され、赤ん坊を抱きかかえた。
「おい、もういい加減にしてくれ、クリスティン!」
「だってしょうがないじゃない。あれは悪魔だもの」
「…もう、耐えられないよ!」
「じゃあ、出ていきなさい!」
二人が言い争う声を聞いて、メアリーはうずくまった。
赤ん坊は家に来てすぐに、屋根裏部屋に閉じ込められた。
食事などは、メアリーが持って行った。
母はいつも通りの生活をするだけで、赤ん坊には全然関わらない。名前すら、つけなかった。
善良な父は、母と何度も言い争っている。
「…わかった!もう僕は出ていくよ!メアリーを連れて!」
「メアリーは、あいつの世話係だもの。連れて行かせないわ」
「…もうどうなっても知らない!お前たちとは、もう二度と会わない!」
父は自分の部屋に駆け込み、荷物を整理した。
ガチャリと、ドアノブが回る音が聞こえて、メアリーは父に駆け寄った。
「お父様!連れてって!」
「…ごめんな、ごめんなあ、メアリー。僕は弱いから、お前を連れていけないよ…。でも、僕はずっとお前のことを愛してるからな…でも、もう二度と、会いたくないよ」
そう言うと、父は扉を勢いよく開け、外へ逃げるように去って行った。
「あの子のこと、よろしくな!」
父の最後の言葉を聞き、メアリーは決心した。
屋根裏部屋の赤ん坊を、絶対に守ると。
「お姉さま、着てきたよ!この服だよね?」
「ええ。これがここの制服」
ミールはメイド服を着てきたのだ。
「さっきまで着てた服は、なんだったの?」
「ああ。私、けが人を制服のままで寝かせとくのはちょっと…って思ってね。かといって寝間着のままいさせるのも…とも思って。普段着はなかったから、とりあえず私の服を着せておいたの」
「そうなんだあ。お裁縫してくれたんでしょ、きっと。お姉さまは昔からお裁縫が上手だもん」
昔と言っても、二人が初めて出会ったのは三年前のことだが。
「懐かしいなあ。お姉さまは服を私が着れるようにしてくれたよね。他にも、たくさんお話したりしたなあ」
「そうね…。さあ、早速仕事を教えるわね」
「うん」
メアリーは、まず掃除用具置き場へ向かった。
「ここに、モップとかほうきとかがあるわ。これで掃除するの」
「長い廊下とか、あの大きなお部屋とか?」
「そうよ」
メアリーは、いろいろな場所へ行って仕事を教えた。
洗濯場、炊事場、大広間、食堂…。
洗濯、料理などはもちろん、掃除も場所によってやり方が少し違う。
三年前も同じことをしたな。
今日、メアリーは三年前を振り返ってばかりだ。
「じゃあ、今日はもう夕方だし、明日から仕事を始めましょう。じゃあね」
「はーい、お姉さま」
ミールは自分の部屋へ帰って行った。
「服を私が着れるようにしてあげた…か」
昔からお裁縫が上手。ミールと出会ったのはほんの数年前だ。そこまで昔というわけではない。
だが、ミールの言葉は間違っていない。
メアリーは昔から裁縫が上手で、自分でワンピースをつくったりしていたのだ。
いつか、ミールにも手作りの洋服をあげたいな。
メアリーは、微笑んで部屋へと帰って行くのだった。
けが人がメイド服着て寝てるっていうのは、けが人がスーツ着て寝てるのと同じです。
メイドの方は癒し成分を与えてくれるから、見る分にはいいかもしれないけど、スーツの方は見る方も堅苦しい印象を与えられる(多分)から見ても得なし。
けが人は普段着か病院の服を着ていればいい。