1取り戻しなさい
翌日。ミールは階段を掃除していた。
しかし、モップから水は垂れるわ、こけそうになるわ、全然進まない。
「はあ、もっとしっかりやらないと」
ミールはモップを持ち直し、掃除を再開した、その時だった。
「あ…」
足が、つるりと滑った。
そのまま、ミールは階段の一番上の段から、下へと真っ逆さまに落ちていった。
ガツン!
目の前が、暗くなっていく…。
「…え、おきな…とがした…たの?」
聞きなれた声が聞こえる。
「…-ル!…じょうぶ!?しっか…」
ミールを心配してくれている。
しかし、その人物を見る前に、ミールの意識は途切れた。そして、
「行ってらっしゃい」
という声が、確かに聞こえた。
「…うう…」
「ミール!」
ミールは、静かに目を開けた。
「大丈夫なの、ミール?」
「…お姉さま?」
「そうよ、メアリーよ」
メアリーはほっとして、ミールに説明した。
「あなたは階段から落ちて気絶していたのよ。リジーア様が、お医者様には連れて行ってくださらなかったから、私の部屋で寝かせていたの。本当に、目が覚めてよかったわ」
「…」
「ミール?」
ミールはしばらく沈黙した後、
「リジーアって、誰のことなの?」
と、静かに尋ねた。
「ほう、こやつが記憶喪失と。なら、なぜお前のことは覚えている?」
「わかりません。しかし、リジーア様のことも、ここのことも覚えていないようだったので」
「そうか。これを機に、不器用も治ればいいのだがな。医者などには連れてゆかぬぞ。ただの小娘の医療費のために、我が金を払うなど失礼だろう。お前が何とかするのだ」
「…」
メアリーは、ミールを連れて部屋を出ていった。
「ここのことはわからないのに、なんで私のことは覚えているのかしら?」
「ここは今まで見たことない場所だよ。でも、お姉さまのことは今までよく見てきた」
メアリーは、途方に暮れてしまった。
この先、この子はどうなってしまうのか、と…。
「…んん?」
目が覚めると、ミールは不思議な世界にいた。
辺り一面、雪が積もったかのようにまっ白だ。
しかし、寒さなんか感じなけらば暑さも感じない。
本当に、不思議な場所だった。
そして何よりもおかしいのが、黄色と水色の地球儀くらいの大きさの球が、宙に浮いていることだった。
「?」
ミールの知る玉は、こんな風に勝手に浮いたりしないはずだ。
なのに、目の前でふよふよと球は浮く。
ミールが困惑していると、
「自分ヲ、取リ戻シナサイ」
という声が聞こえた。
「コノ球二触レレバ、取リ戻ス為ノヒントガ得ラレルハズデス。ソシテ、コレヲ見セル一番ノ理由ハ…」
「理由?」
「…助ケテアゲテ下サイ」
それっきり、声は聞こえなくなった。
「よくわからないけど、触ればいいのですね」
自分自身を納得させ、ミールはまず、水色の球に触れた。
「…」
だんだん意識が朦朧としてきて、ミールはその場に倒れこんだ。