表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

お姉さまは

私はとある大きなお家で働いている、メイドのミールでございます。

えー、年は十一でございます。三年前からここで働いております。

あー、お父様方に売られてきました。飲み食い無料の住み込みという条件の職場に。

そのー、私は家事でもなんでも全然できない、不器用な女でございます。

んー、とりあえず、何とか頑張って働いています、はい。

今がいつかって言うと、数百年昔のとある国って感じでございます。

…これで自己紹介は終わりです…誰に紹介しているのでしょう?


まあ、さっきの自己紹介が全ての極めて平凡な少女、それがミールである。

周りの人たちはかわいくメイド服のミニスカートを着こなしている。サイズがないため、ミールも彼女たちと同じ服を着用している。

そのため、ミニスカートのはずがロングスカートになっている。

このままだと服がぶかぶかのまま働くことになるはずだった。

しかし、それをミールが着れるようにしてくれた人物がいる。メアリー・レイグルスだ。

彼女は誰にでも優しく接する素晴らしい女性だ。みんな、メアリーに憧れている。

ちなみに、冬服はただでさえロングスカートなのが、さらにロングスカートになっている。それはミールが自分で裾を切って、なんとか引きずらないようにできた。裾はガタガタになったが。袖はまくれば問題ない。

そんなかわいそうな少女、ミールは、今日も頑張って働いている…。

「ちょっと、そこのミール?」

「え、なんでございましょう?」

「これ、やっといてくれる?」

一人のメイドが、ミールに洗濯籠を押し付けた。

「こ、こんなにいっぱい…!」

「終わらなくても、私に渡されたなんて言うんじゃないわよ」

メイドは、笑いながら去って行ってしまった。

「…」

ミールはむっとした。今日も相変わらず、先輩になめられている。

「お仕事、終わりますかね…?」

サイズが大きくてずれてしまうホワイトブリムを直しながら、ミールは歩き出した。しかし、

「うわあっ」

何もない廊下で、思いっきり転んでしまった。

「いたあい…」

ミールは散らばってしまった洗濯物を慌てて籠の中に戻した。すると、

「ミール、大丈夫?」

散らばっているタオルを、籠に入れてくれた人がいた。

「メアリーお姉さま…はい、大丈夫でございます」

優しいメアリーは、ミールにとっても憧れだ。勝手ながら、メアリーお姉さまと呼ばせてもらっている。

「無理はしちゃだめよ。手伝いましょうか?」

「ありがとうございます。でも、これは私の仕事でございますので。失礼します」

ミールは頭を下げて、またよたよたと歩き始めた。


案の定、洗濯は終わらなかった。

「ミール、リジーア様がお呼びよ。早く行きなさい」

「は、はい」

説教をされるのだ。これまでも、こういうことは何回もあった。

「ミール、ここに来るのは何回目だ?」

屋敷の女主人、リジーア・カペラがミールに尋ねる。

「えっと…五回目、でございます」

「我は失望している。せっかく高値で買ってやったのに、こんなに役に立たぬとは思っていなかった。我が次に呼び出したら、それは解雇の知らせだと思え。わかったか、使えぬ使用人よ」

「…はい、リジーア様」

ミールは落ち込んでとぼとぼと帰って行った。


「ミール、お疲れ様」

帰ってきたミールを見て、メアリーが微笑んだ。

「メアリーお姉さま、なぜここに?」

ここはミールたち最下級の使用人がいる階だ。

部屋はボロボロで薄汚いし、狭い。

「あなたに会いに来たのよ。今日も、リジーア様に?」

「…そうでございます。やっぱり私、ダメな人間なのでしょうか?」

「そんなことないわ、ミール。あなたはダメな人間なんかじゃない。人間はみんな、素晴らしいものなのよ。いらない人間も、ダメな人間も、存在しないわ」

そう言って、メアリーはミールの部屋のドアを見た。

「入っていい?」


「相変わらず、汚くて申し訳ございません」

「いいのいいの。入りたいって言ったのは私だもの」

メアリーは部屋にある椅子に座り、ミールを見た。

「服、きつくなってない?前いじってから数か月は経ってるけど…」

「まだ、大丈夫でございます」

「もうすぐ冬になるわね。今度裁縫道具を持ってくるから、その時に冬服を見せてくれる?もうちょっと短くなってもいいなら、裾もきれいにするわ」

「ありがとうございます。お願いします」

話し終えると、ミールはベットに座り込んだ。

「相変わらず、今にも壊れそうなベットですよね…」

「ミールは小さいから、使っててもそう簡単には壊れないわよ」

二人はくすくす笑い合った。

「ふわあぁ…眠くなってきたあ…」

「もう夜だものね。おやすみなさい」

ミールはベットに横になる。

「布団、しっかりかぶるのよ」

「はい…」

実はこの一番下の階の人々には、冬以外の季節は布団が支給されない。

しかし、メアリーがこっそり持ってきてくれたおかげで、ミールは暖かく眠ることができている。

「メアリーお姉さま…」

「なあに?」

「どうして…お姉さまは私に優しくしてくれるの…?」

「そうねえ…」

メアリーはしばらく考え込んだ後、

「あなたが、まるであの子のようにいい子だからよ…」

と答え、部屋を去って行った。


それが、最後の二人の会話だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ストーリーが大変面白かったです。 あまりスポットライトが当っていない、 「メイドは使用人」であるというところが中心なのがよかったです。 また、テンポもよく。ちょうどいいくらいの進み具合がよ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ