とある企み
「ねぇ聞いてよ、いいことを思いついたんだ!」
顔をしかめる。また何かやらかすつもりなのか。
「なるほど、よし、やめとけ」
「なんで!?まだ何も言ってないでしょ!?」
隣で口を尖らせるのは異世界転生課の神。俺は輪廻転生課だから仕事的に(あと性格的にも、というか特に性格的に)そりが合わないって言うのに、こいつは何かにつけて俺に話を持ってくるんだよな。忌々しい。
「お前が思いつくことなんてロクでもないことばっかりだ」
「そんなこと言わないでよ、僕だって人々のために一生懸命やってるでしょ?」
「良く言う」
もともと「異世界転生」なんていうのは空想の産物だったのだ。大体、神がしっかり世界を観察して問題をちょこちょこ解決しておけば、大きな問題など起こらない。確かに放置しておけば魔王が生まれてしまう世界もあるにはあるが、対処は可能なのである。そう、しっかりとした神なら。
「まぁ、僕が担当してた世界でたまたま魔王が出ちゃったけどさ、ちゃんと異世界転生課を作って対処したし…」
「対処する前が問題なんだっ!!そもそも観察課だったお前が職務を怠慢しなければこんな事態にはならなかったじゃないかっ!」
「どうどう、君は本当に仕事熱心だよねぇ…」
目の前でダメ神が何かを言っている。こいつは観察を担当していた世界での魔王発生の兆候を見逃して降臨させてしまい、慌てて自分で「異世界転生課」を作り対処したのだ。
「はぁ…。お前が異世界転生課を作ったせいで観察課はやる気がなくなって、最近は魔王がだんだん色んなとこで出現し始めてるし…。どうするんだよ、この状況」
ただでさえ神々はやる気のないやつが多いっていうのに…と深いため息をつく。
さらに言えば、異世界転生課のせいで死者の魂を異世界に送る仕事が増えて、輪廻転生課はものすごい仕事量になっているのだ。まったくもって忌々しい。
一発殴りたい。ってかもう殴っていいかな?いいよな。よし。殴った。
「いたっ!?友を殴るなよ!せめて許可を取って…」
「殴ります。あと友ではないね」
「事後報告!?…って、まだ殴るの!?とりあえず拳を下ろして!」
「殴る許可を拳で取ろうかと」
「なんで僕に対してだけそんなに暴力が多いんだよー!?」
ーーーー
とりあえず昂ぶった拳を落ち着けること数秒。
なんだかボコボコになってるボロ神はまだ話したいことがあるようだ。
「そう、それでいいことを思いついたんだよ!」
「なんでそのテンションで来れるんだ」
「死んだ人を転生させるのってめちゃくちゃ大変でしょ?だから生きてる人を召喚みたいにすればいいんじゃないかなーって。身体ごとさ」
「…ほう。なるほどな」
確かに、亡くなった人を転生させるから大変なんだから(主に俺が)、生きてる人を召喚すればいいのか。
でもそれって相当めんどくさいんじゃないか?例えば…
「その人の元の世界での生活はどうするんだ?他の人も急に連絡が途絶えたらまずいだろう」
「そういうと思ったよ!だからさ…」
そういって懐から紙を取り出す。
「なんだこれ。『ウイルスが蔓延したふりのご協力』?」
「そう!ものすごいウイルスが蔓延した、ってなればきっと人は外に出なくなるでしょ?誰とも交流しなくなれば引き抜きも簡単じゃないか。あとは異世界から帰らせた時に収束した!って宣言すればいいしね」
「これは世界の重鎮に見せるための説明用の紙ってことか?」
「そうそう!神からのお告げ、みたいにすればうまくいかないかな?」
いや、そんなにうまくいくとは思えないが…。でもこの引き抜き策が成功すれば俺も楽できるしなぁ。
別に俺は仕事熱心なわけではない。他の神がやる気がなさすぎるだけなのだ。
「流石に適当すぎるだろ。アイデアはいいかもしれないけど…。
もうちょっと詳細を詰めよう、例えば『どこの世界でやるのか』とか」
「協力してくれるの!?やっぱり君はなんだかんだ頼りになるよね!
ツンデレさん…、いやツンデレ神だね」
「よし、話の前にとりあえず殴るわ」
「なんで!?もう十分でしょ!」
「ちゃんと確認は取った」
神の世界に鈍い音が響いた。