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67:私の選択

 カップを空にして、置こうとしたアオの体がぴくりと震える。


「……もう少し滞在したかったけど、そろそろ五月蠅い頃か」


 どうも何か呼び出しか、注意を受けたらしい。


「折角頑固ジジイ達の事言いくるめて納得させてから来たけれど今はちょっと大人しくしないと駄目だからなぁ」


 ジジイってお前、仮にも相手神だろうに。言ってる本人も神だから……良いんだろうか。別に。

 息をついて私の頭を撫で、額に口づけを落とす。

 思わず体を強張らせ、横から突き刺さる視線を感じる。

 額に残る冷たく暖かな感触が更に自分の状況を意識させる。


「さよならのキス。あー、マナともっと遊びたかったのに残念。

 姫巫女を頼むよ守護者マーシェ君」

「言われなくても」


 助かったが助かってない。二人の間に火花が見える。

 あまり若者を挑発しないでくれアオ。シリルの口調も怖くなっているし。


「僕も一応神だからね、これ以上は喧しくって。教会の君達もよろしく頼むよ。

 じゃあ、さようなら。またね」

「やるだけやって放置か!?」


 私の叫びにニコリとアオが微笑んで。うん、と口だけ動かし溶けるように空気と共に消えてしまった。

 あ、あの無責任がぁぁぁ。この重たい空気を私一人でどうにかしろと。

 場をかき混ぜるだけかき混ぜて逃げた。本当は私の事虐めて遊んでいるのと違うのか。

 っていうかまた来る気かお前! 恐ろしい言葉を残していかないでくれ。


「う、わ。消えちゃった〜」


 さっきまで確実に存在していた人物が消えると脳が拒絶反応を起こす。

 が、シスターマーユは実にお気楽な声で驚いた。


「うおお、マジで異空渡しの旅人フィムフリィソワだ!」


 どっちかというと正常な反応を返してくれたのはオーブリー神父だった。

 シリルは私と同様に転送された事もあるので驚く事はない。


「まだ納得してなかったんですか」


 認めるとか言ってなかっただろうか。じぃっと見つめるとぼりぼり頭を掻く。


「いや、納得はしてたけど生で見せられると、なあ。言動が言動だけにあんまり」


 信じたくなかったのか。不良だけど意外と夢を見る方だなオーブリー神父。

 今までの生活で彼が思ったより真面目なのは知ってたけど。


「流石にここまでの異常行動は神でもないと無理だねぇ」


 ボドウィンが落とした煙草を拾い、ポケットにねじ込む。

 床に落とした煙草を吸う気にはなれ無いらしい。ばん、とやや歪んだテーブルに手を置いてマーユが深紅の瞳を煌めかせる。


「でもマナってやっぱり神の寵愛を受けてたのね!」


 うっとりとした表情だ。こちとら迷惑なだけなんだけど。


「欲しければあげますよ」


 きゃーと悲鳴を上げそうなマーユに告げる。あんな色ボケ神のし付けてくれてやる。


「い、いやぁ。それは」


 紅髪がびくんと跳ねた。気まずげに視線が揺れる。


「シスターセルマどうですか」

「いえっ、そんな。滅相もない」


 取り敢えず振ってはみたが、ブンブンと首を振りセルマさんは頬を染めた。

 容姿に心が揺れていたようだが、二人とも駄目か。


「容姿も地位も財力もあります。かなり良い条件かと思いますが。要りません?」


 追撃代わりに付属属性も教えておく。ある意味玉の輿だと思う。

 悩むようにマーユが腕組みした後、肩をすくめる。


「いい男というか神だけど。ちょっと、あの性格は、ねぇ」


 そ、そうですね。あの性格だから私は嫌なわけだし。

 幾ら顔が良かろうが、狂愛は欲しくない。性格にも多大な問題がある。


「それにマナにぞっこんだったから迫ったって無理だと思うし」

「ううう」


 鋭い指摘に心の中で涙する。そうなのだ、あの神はどう考えても私の事をかなりどころか無茶苦茶気に入ってしまっている。

 好意があろうと無かろうとどうでも良い。私の意志なんて関係ない。絶対に手中に収めるという感じである。

 更に強いし、性格以外ほとんど文句が付けようがない。それも他の神が手を焼く理由の一つなんだろう。

 有能で我が侭な奴はめんどくさい。

 手が付けられないのは有言実行してしまえる奴だ。アオはその両方共を兼ね備えている。

 ……惚れられても嬉しくない。


「頭を冷やしたいので外の空気、吸ってきます」


 騒いだせいか、それとも居心地の悪い空気に我慢が出来なくなったのかシリルが立ち上がる。

 そう言えば私はアオの膝に乗っていたのに普通に椅子の上に座っていた。

 これも神の力とか言う奴だろうか。なんか、力の無駄遣いしてないかアオ。


「気晴らしに付き合ってやりますかね」


 ボドウィンも立ち上がり、煙草をくわえずにぶらぶらと扉から出て行った。

 なんとなく気になって私も椅子から飛び降りる。少しくらい、外の空気を吸っても良いだろう。


「どこいくのよマナ」

「裏の方に。息抜きです」


 ちょっとだけ微笑んで告げる。アオのせいで私も多少混乱している。

 落ち着ける場所に行ったほうが良いだろう。教会裏なら見つからないし。

 静かに扉を開き、目的の場所に向かう。


 私は間違いを犯した。その時だけはじっとしているべきだったのだ。



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