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走った先には、一人の幼女が、全身から煙を立てて横たわっていた。
綺麗に白目を剥き、若干口から涎が垂れているのは汚いが、その燃える様な朱色の髪や、全身を覆う火は、非人間さを醸し出していた。
「お、こいつ誰だ?」
「さっきまでの暑さの原因だ。」
「ならぶっ殺そうぜ。」
物騒なことを言いながら、物騒な変形をするキクスを止めつつ、その幼女への警戒を続ける。
どうやら、ガードも回避もせず、全段命中してしまったらしい。
それなのに、血が出るどころか、よく見れば、痕があるだけで、傷らしきものは一切ついておらず、地味に凹んでいるだけだった。
「どんな理屈だ?精霊ってのはこれくらい頑丈なのがデフォルトなのか?」
『まァ、魔力の弾丸だったからだろう。魔力の塊である精霊には、水鉄砲と変わらない。だが、超高圧の水鉄砲を全身に浴びたら、気絶くらいはするだろ。』
そんなもんか。
「お、目覚めるぞ。」
白目が一度閉じ、顔に力が入る。
少し体が震え、僅かに悶えた後、瞼が開かれる。
その目は、普通の瞳とはまるで違う。
太陽そのものが眼球に入っているかの様な形をしていた。
『ぬっ、妾は何を、そうじゃっ、あの人間をっ。』
「こんにちは、あの人間です。」
『ひょっ!?何故ここに!』
ふむ。
見たところのじゃロリ。
いや、精霊は長寿っぽいし、ロリババアが正解か?
「で?このトラップにはどんな意図があるんだ?えぇ?」
『た、ただの悪戯じゃっ。ここ最近はこの辺りに来る人間が減って、暇だったんじゃ!』
「死ぬから、灼熱の砂漠に閉じ込められたら死ぬからな?」
とりあえず、ピョコピョコと『魔力弾』を額に当てつつ、話を続ける。
この鬱陶しい行動にキレたら、コイツを許す事はしない。
少なくとも、無理矢理同行させるか、魔力の養分になってもらう。
いや、本当はそんな方法知らないから、適当にふかしてるだけなんだけど。
『気絶した時点でオアシスに連れて行って看病する予定だったんじゃ。まさか、あんな変な魔力の塊が飛んで来るとか思ってなかったんじゃ。』
「とりあえず、次からはしないように。もしくはぼくと契約して魔法幼女になってよ。」
『へ?』
「気にするな。詳しくはマキに聞いてくれ。」
とりあえず言いたい事と、ルーティン的なネタをぶっ込んで、そのままマキにブン投げた。
渋々と言った様子のマキだったが、どうやら見た目通りの年齢関係の様で、割とスムーズに話を進められていた。
『ってことで、このおにーさんについて行ったら、面白いモノとか見られるゾってこと。』
『魅力的じゃ。が、妾はここに居続ける理由が有るのじゃ。』
『どんな?オレ様には無かったぜ。』
『砂漠に封印されている、邪神の見張りじゃ。』
邪神?あれか、【左目の神様】か?
邪神なのか?包帯男の体の一部ってことで、パルエラと同じだと思ってたんだけど。
もしかして、パルエラも邪神?
『実を言うと、私も邪神って扱いではあるわ。それは単に、この世界の宗教が原因ね。その宗教は、空想の神を唯一神としていて、他は実在していても邪神と言っているの。』
「宗教か、知ってるのは三つだけど、どれ?」
『義神教ね。義理の神として、縁を司ると言われている偽神よ。全能神の体から生まれてない、分類で言うと精霊や都市伝説ね。』
異世界都市伝説か。
つまり、噂やら嘘の話やらが積み重なった結果生まれた者ってことになるのか。
「俺はその邪神に用がある。だから契約しろ。」
『ま、まさか邪教なのか?邪神を復活させようと目論んでいるのなら、やめたほうがいいのじゃ!』
「ほう?なら、その邪神の元へ行かなければ契約してくれるのか?」
『そ、それなら、同行は出来ぬが、契約くらいはできるよう、やるだけやってみる。どうじゃ?』
「だが断る。とにかく俺はどっちも欲しい。というわけで、すこし強硬手段に出る。」
魔力を檻状に組んで、その中に精霊を閉じ込める。
そう言えば......
「お前に名前は無いのか?」
『無い!というかここからだすのじゃ!』
「だから断る!じゃあ今からお前の名前『イム』なっ!」
フレイムのイムだ。
フレはフレンドっぽいし、レイは日本語っぽくて嫌だった。
日本語が嫌なのではなく、俺の個人的な趣味だ。
異世界に行った日本人が、名前で呼ばれる時に漢字で表記されていたら違和感を覚えるタイプだからだ。
「じゃあイム、マキと話しながら、適当に行くぞ。」
「話終わったか?」
「ああ、良い者も捕まえたし、重畳だ。キクスも、よく我慢したな。」
「無論だ。話に割り込まないというのは常識だ。」
よくできた子を持って、父は嬉しいよ。
『ゴブリンズ』もよくやってくれているらしいし、気になるけど......
ああ!駄目だ!【称号】の事は考えるな!
キクスの脱衣以上に悶々とした気分を抱えながら、俺は砂漠を歩く。
キクスはたまにミミズを倒しては食べた。




