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 瞼をすり抜けて、日光が眼球を焼く。

目を開けば、青い空が見え、体にすっきりとした爽快感らしき感覚が溢れる。


「あっ!!キクス!」

「おう!!なんだ!」


 返事と同時に、大きな衝撃と風が巻き起こり、俺の視界が砂で埋まる。


「おうおう!まだ足りねえ!もっと襲ってこい!」


 砂埃が収まり、景色が晴れると、そこには大量のミミズの死体と、それの上に立つキクスの姿があった。


「オマエの名前を聞いてない。マスターってのは名前じゃないよな。名前を教えろ。」

「ノア・オドトン、だ。えっと、このミミズは、キクスが?」

「そうだ。ちょっと落ち着いたから、片付ける(・・・・)


 そう言ったキクスは、一瞬俺から視線を逸らすと、右腕を大きく横にスイングする。

昔俺がやった野球の、ちょっと笑われたフォームみたいな動きをする。


 それと同時に、右腕が遠心力に引っ張られるように伸び始め、そこからまるで、ミミズの頭部だけが出現した様に、変形する。


 うえっ、昔動画サイトで見たヤバい系の動画にそんなのがあった気がする。


変形した右腕は、ミミズの形状でミミズを食うという、ウロボロスの様に共食いを......いや、ウロボロスじゃないな。

 違ったわ。


とりあえず、異形の右腕で捕食する様は、病院で見た、ベルの変身に少し似ていた。


 違う点といえば、キクスは自分の意思で動かしているらしいところと、肉の塊ではなく、ミミズの頭というところだ。


「そう!これが俺の能力らしいな!」

「キメラの特性......?使った核の魔物を生やす......?」


 仮説が立てられては崩れ、立てて立てて、結局崩れなかった一つに収束する。


「まさか、核を吸収することによって、それを接収するってことか?」

「そう言う事だな!」


 全ての魔物を食べ終えたキクスは、グルングルンと手を振り回しながらこちらへ走って―――


「なぬっ」


 走って来ている時に、目に入ってきた超暴力。

使い方によっては、平和を呼ぶことも、破壊を産む事もできる可能性の塊。

 いや、こういう時は、この言葉が正しいだろうか。


『何がとは言わないが、大きかった。』


 

 それと、キクスは女だったらしい。


「この服は良いぞ。動きが阻害されない。」


 普通なら無表情なのだが、戦闘中はテンションが上がるらしい。

高低差で耳が詰まる。


 暗くて見えなかった『自作布』の形成結果は、ピッチリ系の手足首の先や、頭が出ている全身タイツ。

色は黒色で、それがキクスの、ややピンク色の肌にマッチしていた。

 身長は俺よりもはるかに高い、推定170センチで、タイツだからか、身体のラインから筋肉の質感が良く分かる。


 肌がピンクっぽいのは、ミミズや、狼の毛皮の下の皮膚がそんな色だったからなのだろう。

しかし、それなら、髪の色が何故か、狼の様な紺色ではなく、何故か金色だった。


 ゴブリンの地毛が金色だったのだろうか。

それかミミズか?

 毛が生えて無くても、そういう因子みたいなものが存在するのだろうか。


それとも、法則性の無い完全なランダム?


 分からないな。


 今度作る時には、少し気にして見よう。


「じゃあ、これから遺跡探しをするから、ついて来てほしい。」

「いいぞ。」


 そういえば、男の口調なのも気になるな。


◇◆◇


 歩いて数時間、異変に気付く。


「あ?なんで日光が動かない?」

「アレは動く物なのか?」

「直接見るなよ。少なくとも、一切動かないのはおかしい。こうなったら、この『太陽が動かない』現象自体、遺跡のオプションだと思うべきか?」

『ちげェなァ。これは明らかに精霊の力だ。西の砂漠の精霊は、恐らく、熱や光、太陽を司る大精霊だぜ。』


 マキの助言により、自体の深刻性が浮き彫りになる。


まずい、大変まずい。


 熱中症や脱水症状対策はしているが、それが完璧ということはない。

少なくとも、この水準の世界に、保冷剤の様な物は存在せず、【無】属性の応用で氷を作ろうとしても、小さな物しかできない。


 いや、それも非常に大変なことなんだが、


もっと大変なことと言えば、


「暑い。」


 キクスが今にも脱ぎそうなのだ。


 ヤバい。

昨夜は男女の区別が曖昧だったため、特に何も思わなかったが、流石に今脱がれるのは不味い。


 俺は前世でもチェリーピュアなボーイだったんだ。

それが今、まだ第二次性徴も来ていない八歳児になっているというミラクルを起こしているため、その効力は普通の10倍は固い。


 ドギマギどころではなく、本気で鼻血による失血死をするかもしれない。


 ということで、俺は急ぐ、全力で急ぐ。


周囲に魔力波を放ち、その反響で物体を探す『ロケーション』と、四方八方に、5キロ飛んだら勝手に消滅する『魔力弾』を放つ。

 総数およそ1500。

 自然消滅型で、貫通性能を下げたため、消費魔力は10個で3という超コスパだ。



んんっ、んん?

 反応が三つ(・・)

変な話だが、俺達を中心に三角形を描く形で手応えが生じた。

 

 『ロケーション』と『魔力弾』のどちらにも引っ掛かった以上、間違いない筈。

何より、目視できないというのがネックだ。


 ということで


「三点集中『魔力弾』」


 『分身』二体と共に、大量の『魔力弾』を打ち込む。

一人頭100発。

 威力はバラバラにしており、ある程度予測が付けられない仕様にしているため、ガード機能があっても、簡単には全部を防げない。


 更に、普通の『魔力弾』の様な貫通性よりも、自動追尾性に振ったため、避けきることは不可能。


 そして、ついでに実験として、面白半分で『着弾時拡散』という、地雷やショットガンの様な丸い魔力玉を詰め込んでおり、中々にえぐい攻撃をしてみた。


 さて、どう出る?


『ぎぃいいいにゃぁああああああ!!!!』


 たまたま、俺の向いている方向から悲鳴があがり、太陽が一瞬でずれる。


 どうやら、ビンゴを引いたらしく、更には『魔力弾』がちゃんと当たったようだ。

にしても、反応が速いな。

 ガードや回避で、もうちょっと長引くと思ったのだが、もしかしたら着弾よりも先に悲鳴が上がって、今現在避け続けており、それに意識を持って行かれたから、この変な現象が収まったのだろうか。


 とりあえず、俺は『分身』を消して、その方向へと猛ダッシュした。


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