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ついに卵が孵る。
「MWMWMWMWMWMW」
イメージはこんな感じ。
まるで超音波の様な音が耳を貫き、卵を中心として、砂漠の砂が大きなクレーターを作り始める。
それは、砂場に落ちた水の様に綺麗な円を描き広がっていき、遂には集束した。
光が無くなったことで、辺りは暗さを取り戻したが、それでもその卵だけは異様なオーラを放っており、少し目を離しても、その存在感はハッキリと伝わっ......?
卵?
「なっ!?孵ってない!というか、ヒビも入ってないし、人型にもなってない!」
おかしい、『鑑定』とは全く違う結果になった。
確かに『鑑定』を100パーセント信じられるかと言ったらそうではないが、しかし、少なくとも二人分のチート能力を養分にして強化した『鑑定』が、早々外れてしまっては、その存在価値がまるで無くなってしまう。
「いや、待て、表記が『魔人の卵』から『魔人』になってる。ってことは、これで孵化した姿なのか?」
近付いて指で突いても、何の反応も無い。
それどころか、突かれたちょっとの振動で、絶妙なバランスを取っていた卵が転がってしまった。
慌てて立て直そうと、その卵に近付いたのだが、その瞬間、とんでもない物を見る。
「これは、穴?」
ちょうど、俺から見えない程度の角度に、卵の表面積の10分の1ほどの大きさの穴が開いていた。
卵の殻が割れたとかではなく、綺麗な円形の穴が開いており、中は、
中は、空洞になっていた......!
『まずいっ、後ろ!』
「ッ!!」
マキの声と共に、背後に振り返り、両腕を交差してガードをする。
それと同時に、見えない何かが、高速で俺の腕を蹴り飛ばした。
「ぶっ!」
魔力が底をついている状態では、碌な空中回転もできず、まるで水面を滑る平らな石の様に地面に弾かれた。
一応、地面が砂だったのと、初動で小さく受け身を取れたことが幸いし、『両腕の複雑骨折』程度で済んでいるものの、少しでもガードが遅ければ、それだけで脊椎損傷や、内臓破裂などの、生涯レベルの傷を負っていたかもしれない。
マキ、ナイス。
「お前が、卵から生まれた魔人か?」
「......知らん。」
「え?えぇ?」
『ゴブリンズ』のライトレフトは、生まれた時から自分達が『ホムンクルス』であることを理解していた。
それなのに、こいつは全然、というか、暗くてよく見えん!
「戦いたい、強敵、怨敵、宿敵。オマエは、それか?」
「違うな。強いて言うなら親だ。」
「親の仇か?それは良い、殺す!」
そう言い、地面を蹴ったソイツは、驚異的なスピードで俺に肉薄し、後ろ回し蹴りで脇腹を抉った。
「がばっ!」
見える分には見えるのだが、反応速度が追い付かない。
ルルロラルの時の様な、ステータスに振り回される動きじゃない。
あり得ない程に無駄が無い動き。
例えば、ルルロラルが乙女走りをしているのに対して、コイツはクラウチングスタートからの陸上部的な競技走り。
同じ筋力、同じ身長だろうとその差は歴然。
俺は、たった10秒程度でサンドバッグに成り下がり、30秒後にはボロ雑巾になっていた。
「ちっ、張り合いが無い。もっと敵にはならないのか?」
「敵、敵って、言っても、お前に敵なんていない。」
「いや、いる。俺より強い者がいるなら、そいつは敵だ。」
「なら、俺はお前の敵じゃない。だから一旦落ち着いて、話を聞け。」
地面を這いながら、口に砂の感触を味わって、俺はソイツを見上げてそう言う。
「お前は俺の『ホムンクルス』だ。逆らうんじゃ、ねぇ!!」
「うん、それは一理ある。ならそうしよう。」
「へぁ?」
突然の心変わりに驚いている俺を横目に、ソイツはその場に座り込む。
「で、どんな話だ?」
「えと、まずは名前、それから、お前の能力を確かめる。」
「ふむ、では聞こう、俺の名はなんだ?」
「......」
突然大人しくなったコイツを警戒しつつ、回復の為にポーションを『ボックス』から取り出し飲み干す。
痛みは多少マシになったものの、未だ動かせる程ではない。
「一応、1時間中考えた名前はある。」
「興味がある。」
「『キマイラ』が種族名、となると、キメラとも呼べる。キメラは混成された獣。つまり、ミックスなんだ。だから、キメラとミックスを掛けた、キクスなんてどうだ?」
「センスは壊滅的だが、発想は好きだ。よし、俺の名はキクスだな!」
「特技はあるか?もしくは、したいこととか。」
「戦い!闘う事こそ俺の生きがい!」
戦う事に、感情の全ベクトルが傾いている。
一体なんでこんな風な正確になったのかは分からないが
「俺についてくれば、強いやつと戦えるぞ。」
「ホントか!!ならついて行く!」
キクスが仲間になった。
とはいえ、今回は偶然、相手の意思を汲んでどうにかできたようなもので、次も同じ様にできるとは思えない。
少し控えるか。
「とりあえず服を着てほしい、『自作布』」
『ボックス』から取り出したアイテムを渡すと、身体から力が抜けて、俺は砂に顔から突っ込んだ。




