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 デート当日。

俺は副院長と共にウェンディゴとベルの尾行をしていた。


 バリバリデート気分のウェンディゴと、ただのお出かけ気分のベル。

相手に抱く印象によって、その後の行動がどう変わるのか。事の先がどう向くのか。


 ぶっちゃけると、ただの野次馬精神だ。


「あ、ベルさん、おはようございます!」

「ふふっ、もうこんにちはですよ。ウェンディゴさん。」


 他愛無い会話から入り、歩きながら雑談を交わす、身長が2メートルを越える大男と、二桁になって半分程度の少女。

 身長差約50センチ。


 現代で見たなら一発で職質だ。


「今日は、お洋服を見に行きたいんです。」

「ふ、服っ。えっと、申し訳ありません。オレ、いや、ワタシはあまりそういった店に詳しくなくて」

「大丈夫です。私もそんなに詳しくありませんっ。」


 胸を張ってそう告げるベル。

この二人、一体どこに行くつもりなんだ......


「で、でしたら、色んな所を見て回ったらどうでしょう?」

「むー。ウェンディゴさん、普段はそんな話し方じゃないですよね?」

「え、えっ」

「いつもみたいな豪快な喋り方をしてください。じゃないと、ここから動きませんよ。」


 どこか斜め上を行くベルの発言に困惑しながら、ウェンディゴは間を置き、顔を背けて喋る。


「......これで、いいか?ベル、さん。」

「ベルです。その代わり、私もウェンディゴさんのこと、呼び捨てにしても良いですか?」

「あ、ああ、ベル。」

「はい、ウェンディゴ。では、少し歩きましょうか。」


 なんと、恋人同士でも難しい『呼び捨て』というイチャイチャを見せつけられ、俺と副院長はニヤニヤと笑みを浮かべる。

 普段は険しい顔で、大きな声で怒鳴るウェンディゴが、顔を朱に染めて笑顔を振りまく。

 普段は少し暗い表情で、自分の立場に愁いているベルが、楽しそうに笑っている。


 そのまま、順調にデートが続き、俺達はそれを尾行した。


◇◆◇


 夏に近い傾向のある、日の長い季節でも、そろそろ空が紅くなり始め、徐々に夜に近付く。

少しずつ閉店する店も増え、それでもベルとウェンディゴは雑談を続けて歩いていた。


 ウェンディゴが両手に持つ荷物は少しずつ増えたものの、それを苦とするほど弱くはない。

伊達に俺と副院長の監修の元、パーフェクトなトレーニングをさせたのだから、当然だ。


「ぬう、ノア殿よ。私の勘違いなら良いのだが、嫌な予感がする。」

「でしたら、悪い事が起きるのでしょう。貴方の勘は割と当たる。」


 副院長の勘の通り、不穏の種が俺の目に映る。


「やあ、ベルじゃないか。久しぶり。こっちに帰ってきたのは偶然だったんだけど、病気、治ったんだね!」

「......ヒットホース。」

「あれ?姓で呼ぶなんで素っ気ないなぁ。ボクの事はいつもみたいにリードと呼んでくれよ。」


 ベルの元恋人。

手酷くベルを振って、悲劇を生みだした無自覚のクソ野郎。


 俺の持つ情報通り、どこか作った様な爽やかさを演出するゴミだ。


「それよりも、酷いな。ボクという者がありながら、そんな粗野で野蛮な、まるで盗賊みたいな男と一緒にいるなんて。」


 リード(クソ野郎)はウェンディゴに向けてそう言う。

たしかに、多少整えただけで伸びっぱなしの髪も、その体の大きさや、絶妙に慣れきっていない義足による変な挙動を含めてみると、ウェンディゴにそういった上品さは無い。


「やめて、ウェンディゴはそんな人じゃない。すごい努力家で、いつもひたむきに頑張ってる人なの。」

「そういう話じゃないだろ。問題は君だ。ボクを差し置いて浮気とか、とんだあばずれだよ。君じゃ無くてファニを選んで正解だった。」


 ファニ・ラングドル。

情報が正しければ、あのほっそい『生徒会副会長』。

 ハクにボコボコにされた男の妹だったはず。

 妙な所で世間が狭いのは分かったのだが、たしか年齢差は2歳。

 高等部一年とのことだ。


「とはいえ、君が元気になってよかったよ。君が病気になったって聞いた時はすごく心配したんだ。ボクにもうつってるんじゃないかって。でも、感染力が無いって聞いて、すごく安心したんだ。」

「......ッ」

「......てめぇ」


 ......


「なんだ野蛮人。ボクがベルと話してるのが見えない?そんなお粗末な目なら要らないんじゃない?」

「てめぇみたいなゴミに、身体の事をどうこう言われる筋合いがねェな。」

「うるっさいなぁ。もしかして、君が本当にベルに相手にされてるとでも?そんなわけないだろ。ベルには、ボクみたいな気品があって教養のある男が相応しいのさ。」


 ふざけたことを抜かすリード(クソ野郎)に、ウェンディゴは過剰に反応することをしない。

何故なら、そうした所で、コイツは何も思わない。

 まるでザル。網目から水が抜けて行くザルの様に、コイツは人の話を聞かない。


「ベルは病気じゃない。オレの尊敬する医者がそう言っていた。」

「はぁ、君みたいな馬鹿には言っても理解しないって、その医者も分かってたんだよきっと。それか、その医者も馬鹿なのかも。【治癒】魔法しか取り柄の無い人って無様だよね。そんなただのラッキーだけで役職に就けるとか、すごい楽だし。」


 ベキッと音が聞こえる。

見ると、副院長が手を添えていた壁に、一部ヒビが入っている。

 その顔は皺と血で赤黒く染まっており、鬼の様な表情をしている。


「......もう、やめて。一体なんの目的で話し掛けてきたの。」

「え?そんなの、ボクの恋人が変な男と一緒にいたから、心配して声を掛けただけに決まってるじゃん。」


 何を言ってんの?というような顔でそういうリード(クソ野郎)

いや、もうクソ野郎だけで良いか。

 クソ野郎はそう言うと、ベルの手首を掴み、自分の元に引き寄せる。


 怒りと我慢のせめぎ合いに忙しいウェンディゴは、それに反応するのが少し遅れた。


「私はもう恋人じゃない。」

「そんな訳無いじゃん。ほら、会えなかったのは仕方ないんだから、拗ねないでよ。」

「......さい。」

「ははっ、大丈夫さ。ボクは浮気に寛容だから。」

「うる......さい!!!!」


 叫んだベルの右肩から、らせん状に捻じれた肉の腕が飛び出し、クソ野郎の顔面を穿つ。


「クズックズックズゥッ!!!アナタみたいな男と恋人だったなんて、一刻も早く忘れたい!!死ね!死ね!死ネ!!」


 地下にいた時とは違う、明確な殺意によるストレス。

まるで、いじめられっ子がキレて、突然暴れ出すような、直線的で無差別な攻撃。


 当然、顔面を撃たれたクソ野郎は、その事実にすら気付かないまま、石レンガの壁にぶつかり気絶する。

 大きめのクレーターを開けたその衝撃は、周辺に拡散、住民たちを家の外に出す。


「これはっ!?」

「なんだあの化物!」

「だ、誰かギルドに連絡を!」

「街中に魔物が出たぞ!」

「た、助けて!!」

「あれは、少女の姿をしたアレはなんだ!?」


 みな、口々にベルの姿を指して叫ぶ。

化物だなんだと、聞いている側の事など一切気にしない。


無自覚で不愉快極まりない悪意の集合。


 それを一身に浴び、ベルの体は徐々に原型を失う。


「死ネェェェエエエエエ!!」


 牙や爪が出現した体は、クソ野郎に向けて伸び、その命を刈り取ろうとする。


が、その前にクソ野郎の体を、ウェンディゴが横に蹴り飛ばす。


 切り裂く対象を失った牙や爪は、ウェンディゴの脚、義足に集中し、その金属をいともたやすく貫く。

作るのに苦労したんだけど......


「邪魔ヲスルナァ!!」

「断る!!」


 バランスを失った筈のウェンディゴは、それでも倒れず、ベルを見据える。


「止める!!」

「殺ス!!」

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