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 俺の知識では、精霊は人間に多大な恩恵をもたらしてくれる存在だ。

しかし、その一方で適性を見られなかった相手は受け付けてもらえないという。


 遺跡、と思われる巨大な立方体から、人間大の光の塊が出て来る。

それは、明確な輪郭を持ち始め、口や鼻などのパーツも次第に形作られていった。


「誰?」

「え......?」


 攻撃してくるでもなく、対話を求められた。

初対面としての対応ならそれが適切ではあるが、相手は得体の知れない精霊。

 どこで機嫌をそこねてしまうかが分からない。


「だから、誰だって!自己紹介くらいしろよ!」

「ノアだ。だが、人に名前を聞く時は自分から名乗るべきでは?」

「オイオイオイ、いきなり家宅訪問されて、自分から自己紹介するボケは早々いないだろ?俺がそうだとは思わないし、少なくとも精霊にそんな奴はいねぇ。」


 かなり饒舌なやつだ。

勝手な偏見だが、精霊はもっと寡黙で、神々しい物だと思っていた。


「ここに来た理由は―――」

「ああハイハイ、どうせ契約しろってハラだろ?分かった分かった。結んでやるよ。」

「え......?」


 あっさりと了承され、数瞬思考が止まる。


「俺はここ二百年は暇してたからなぁ。外界を見せてくれるなら願ったり叶ったりだ。それに、お前はどうやら俺と相性が良い。近代では珍しい『複数契約の才能』があると見た。」

「二百......外界......相性......『複数契約の才能』?」


 考え込む、考え込み、ニヤニヤと俺を見る精霊の顔を見る。

情報処理だけは簡単に進む。俺は顔をあげて精霊を見た。


「精霊は不老不死に近い特性を持ち、尚且つこの空間から出られない?俺と相性が良いって言うのは、単純に一緒にいてストレスが溜まらないと感じただけ?『複数契約の才能』ってのはパルエラと包帯男の事だな?」

全問正解(パーフェクト)。素晴らしいお前にはご褒美として、契約レベル3を最初から与えよう。」

「契約レベル?それが上がると恩恵が増えるのか?」

「うんうん。そゆこと。なんなら、今盗み見してるパルエラ様に聞いても良いぜ?」


 パルエラの存在まで知っている。となると、この精霊はかなり高位の存在なのか?

いや、単純に所属の違いの可能性もある。

 野良のコイツらを精霊。天国みたいな所にいるコイツらを神と呼んでいる事もあるかもしれない。

だが、この精霊はパルエラに敬称をつけた。


「さて、そろそろ契約しようぜ。俺は『魔力の精霊』であるマキ。これより、お前の守護精霊となる。」


 精霊、マキは俺に手を差し出す。

その形は握手。対等な関係であるということだろう。


「ノア・オドトン。よろしく。」

「礼儀正しくてよろしい。」


『【魔力の精霊の加護】を獲得しました。現在レベル3。魔力が1000加算されます。』


「は?」

「どうした?魔力が1000だ。レベル1なら10。2なら100。0が一つずつ増えて行く。不満か?」


 むしろ自分の方が不満そうな表情をしながら、マキはそう呟く。

というより、むしろ、ここまで俺に適した加護は無いんじゃないだろうか。


「最高の加護だ。ありがとう。」

「うむ。これからよろしく頼むぜ。」


 俺は改めてマキと握手を交わした。


◇◆◇


「マキはノアの友達になったのかー!」

「んー。まあ、そうだぜ。」


 帰り道、ハクとマキはすぐに打ち解けたようで、楽しそうに話していた。

嫉妬をしているわけではないのだが、何故か蚊帳の外ですこし淋しい。


 その淋しさを紛らわすために、思考に没頭する事にした。


 マキの加護による恩恵は素晴らしいものだ。

魔力が1000も増えた。仮にこれがレベル1からだとしても、それは相当なレベルの物となる。

 俺の素の魔力は34。常に訓練をしていてこれなのだから、たった1でもかなり大変だということがわかる。

 

 なにより、マキと契約を交わしてからというもの、力が漲って仕方が無い。

棍棒を持つ手は緩めずに、他の物に魔力を供給させられるほどだ。

 なので、先程から近場にある小石を無数に浮かせている。


 これが、例えばもっと複数の精霊と契約をしたなら、どうなるだろう。

想像は膨らむ。今の俺としては、他の属性の適性を持つつもりはない。

 器用貧乏だった前世の弊害として、手に入れれば既存の魔力と同じレベルまで昇華できる自信はある。


 しかし、それはすこし物足りない。

できるなら、一つの道をトコトン進みたいのだ。


 だから、めぼしい恩恵の精霊としか契約する気は無い。

じゃあ、神との契約はどうなのだろう。

 現在ある包帯男とパルエラの加護は、ぶっちゃけ俺への情報提供程の価値しかない。

それだけでも十分助かってはいるが、ステータスには一切の関わりが無いのが問題だ。


 実際にここまでのボーナスをくれたマキと、どうしても比べてしまう。


「ま、いいか。」


 棚に置く事にした。


「ん?どうしたんだ?もしかして、ハクが俺に取られると思ったのか?可愛いヤツめ。」

「わたしはずっとノァと一緒だよ!」

「考え事をしてただけだ。」


 マキがからかい、ハクは俺が寂しがっていたと思い、腕を組んで来る。

その姿が、さらにマキを加速させていく。


「おうおう、見せつけるねぇ。ハクはお前のコレかい?」


 そう言って小指を立てる。

その意味は『彼女』。

 この世界にもこんなジェスチャーがあったとは、盲点だった。


「ハクは大切な相手だ。今ならお前もそうだよ。」

「な......!?」


 斜め上の方向から反撃が来て、混乱しているマキ。


ふふ、良い気味だ。


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