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ウェンディゴの義足造りと、ベルへのカウンセリングと、ヘレナ女医への教育。
etcetc......
忙しい日々の中、常に葛藤をし続ける。
『今、どれくらい【称号】が集まっているのか、気になるッ!す、少しだけ解放しては駄目か?せ、せめて内容だけでも。』
という、溜めゲーをした人なら一度はあるであろうこの悩み。
激務の中、そんな事を考える余裕があるのか。
あるのだよ。
現代日本の様な、重大で深刻な病気や、交通事故的な重体患者がいない以上、そこまで忙しくなることは無い。
少なくとも、自分を増やせる『分身』が有る以上、分担する割合の分母を増やせばいいだけなのだ。
そして、我慢を続けたまま、一週間が経過。
ウェンディゴの義足が完成する。
「やっと完成か!!」
「ええ、随分と手間が掛かりました。」
切断面から踵までの長さは、もう片方を参考にし、爪先までも同様の方法にすることにした。
表面は人間の皮膚を模した『着色スライム皮膚』を使用。これによって腐食しないように、すこし手を加え、義足を動かす動力に、ウェンディゴの血を使うことにした。
もともと、『人工神経』で動かすためには、何かしらの電気の様なエネルギーが必要だったので、それをウェンディゴの血液の流れを使った自家発電的な構造にした。
とはいえ、関節部の可動域の関係で、少しだけ効率が悪いのが難点。
球体関節人形の様に、普通は無理だろうという角度まで曲げてしまっては、チューブが通らないのだ。
ということで、可動域のモデルとしたのは、『副院長』の脚。
つまり、『日頃から運動をしていないため、あまり曲げられない足』をコンセプトとさせてもらったのだ。
「では、施術を行いますが、忠告です。『人工神経』の感度を測るために、地獄の痛みを味わいますが、良いですね?」
「構わねえ」
「分かりました。でしたら、今から始めましょう。」
オペ室なんて無い以上、衛生的に問題があっても、個室でやるしかない。
もっと先の話になれば別だが、ウェンディゴがそこまで待てるとも思えない。
「では、歯を食いしばる......のはオトガイ結節的にやめたほうがいいので、これを噛んでください。」
そう言って口に突っ込んだのは、強化版スライム玉。
ヘレナ女医に渡した物を更に改良し、弾力が二倍、耐久が三倍の鬼強化がされているだけでなく、なんと、強く絞れば中からポーションが出る仕組みになっている。
ちなみに、水分は無限に吸い込むので、唾液の心配はいらない。
「もごっ......ッッッ!!?」
口に突っ込んだスライム玉に困惑している隙に、一度、無くなっている先の脚を切断する。
骨が露出する部分まで抉ったので、余裕で激痛なのだが、ウェンディゴは力一杯スライム玉を噛んで耐えていた。
まず、断面に神経と、繋がってしまっている血管の切断。
リンパ管やなんかという様々な管を切断、義足のチューブに接続、縫合と溶接を重ね、主柱となる部分を骨にネジで固定し、ゆっくりと引きのばす。
ちょうど両脚の長さを併せたところで、副院長の【治癒】魔法と、『癒善草』ポーションの重ね掛けを浴びせる。
それと同時に、消毒のためと、酒をぶちまける。
露出した神経に、消毒のための酒。
常人ならショック死しているだろうが、ウェンディゴはそれ以上の根性を見せる。
患者に無理をさせるのは、未熟な証拠なのだ。
「今回は【治癒】を使いましたが、将来的に『無菌室』を作れれば、その中での自然治癒のみで行います。その際には、痛みを感じなくなるような、麻酔が手に入っていることが望ましいのですが......」
「難しい話だな。君は麻酔とやらのレシピを知らない。菌はどんな所にも繁殖するし、この空気中にもあるという。まず無理なのでは?」
「そこは、ファンタジーのご都合主義ということで」
「?」
痛みを抑え、出血も微量。
とはいえ、足一本分の血液が体内から無くなったということで、貧血が続くだろうが、まあこれまでの積み重ねだ。
一番苦労したのは、切断した血管に空気を触れさせないことだ。
魔力でのコーティングがちゃんと機能してくれてよかったと、すごく思っている。
「は、疲れた。副院長、彼に料理を。メニューとしましては、葉野菜と鳥の内臓を焼いた物。肉類をベースに、野菜を適度に摂るくらいがいいですね。」
「ノア殿、私が料理をできるといっても、コックのようにはできないのだが」
「コックは求めていません。必要なのは、腹を下さない料理です。その分ではアナタは満点でした。」
火が中まで通っており、賞味期限や消費期限と言う概念を知らないくせに、ちゃんと新鮮な食材を揃えることができ、効率良く手際良く作業をする様は、良き料理人だった。
思えば、副院長は第一印象が悪かっただけで、普通に優秀な人なのだ。
器用貧乏とでもいうのか、なんでもそつなくこなせるというのは、集団に一人はいてほしい。
「これから一ヶ月かけて調整を行います。副院長はそれに付き合ってください。俺は俺の方で色々とやることがあるので、逃げようとしたら全力で止めてください。」
無茶振りをすると、予想に反して副院長は深く頷いた。
てっきり、顔をしかめて嫌がると思っていたのだが。
「では、俺は仕事に戻ります。」
「......君はまだ若いのだから、少し休んだらどうなのだね」
「ちゃんと夜の十時から朝の六時までは休んでいますよ。俺には俺の最適解が有り、そのために効率的に動いているだけですから、ご心配無く。」
「わかったよ」




