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「では、アナタの名前と年齢、適性属性をお教えください。」
「オレの名はウェンディゴ・トルアロス!25歳、【土】と【火】だ!」
「それで、アナタはその足を治したいと。」
「ああ!治せるんだろう!!もし嘘だったんなら、この病院をぶっ壊すからなぁ!」
目が血走り、受け答えはできても、食い気味すぎて会話が面倒。
とはいえ、この足をどうにかしたいというのに必死なのだろう。
「足が無くなってからどれくらいですか?」
「1ヶ月だ!この、1ヶ月で、オレは......クソォ!!」
何かあったのだろう。
恐らくは、彼がここまで荒れる何かが。
「【火】属性は今後使えないと考えてください。金属製の義肢ですので、溶かされると困ります。」
「それくらいなら構わねぇ!」
「でしたら、少し採寸を行いますので、そちらのベッドへどうぞ。」
体重を量り、足の長さを測る。
五指の大きさと、骨の間隔を測る。足の筋肉の大きさと密度を測る。
「膝は残っています?」
「ああ」
「そうですね。では、試しの義肢を付けるので、一週間、杖無しで過ごしてください。」
「何!?」
「正式な義肢を得たところで、歩けなければ意味が無い。その前にリハビリをしてもらいます。」
リハビリなんて悠長なことはしていられないと、その男、ウェンディゴが立ち上がろうとした時、力を入れた足を横から掻っ攫う。
漫画の様にすっ転んだウェンディゴは、顎から地面に激突し、そのまま気を失ってしまうが、咄嗟に掴んだ俺の襟は、ブチブチと音を立てて千切れてしまった。
「執念良しか。まあ、義肢が出来あがったあとに、何に使おうと構わないけど」
「ここ、この男はどうするのだね?何度も、今の様に眠らせるのは無理なのだろう?」
「副院長に頼みます。彼の主治医になってもらいましょう。」
「へぁ!!?」
こうして、謎の大男ウェンディゴの入院が決まり、俺の本体は義肢作りに本腰を入れることになった。
◇◆◇
翌日、ウェンディゴの病室の前で、副院長がうろうろと歩きまわっていた。
どうやら、中に入るかどうかを迷っているらしい。
「ああ、どうしようか。ノア殿からの頼みとはいえ、あまりにも怖いっ!怖すぎるっ!あの男が癇癪を起して、ななな、殴られでもしたら、しし、死んでしまうぞ!?」
「やかましい。殴らねえし殺さねえ。用が無えなら帰れ!」
「ひ、ひぃ!!わわ、私は君の主治医だぞ!こここれから、君の健康状態をチェックしたあと、運動に連れ出さねばならぬのだ!」
「てめぇがオレの主治医?ふん、入りな」
「うううむ、お邪魔する......ん?」
医者が病室に入るのに患者の許可を取っている状況に疑問を覚えるも、副院長は異議を唱えずに中に入る。
暴れた形跡は無し、起きてからずっと静かにしていたのだろう。
「で、何を測るってんだ?」
「まず、昨日ノア殿に打ち付けられた箇所。顎や首に違和感は無いかね?」
「ああ、特に無い。しかし、昨日は気付かなかったが、あいつガキだろ?なんで医者やってんだ?」
「正式には医者ではないのだよ......何故か、我らは彼に指導を受けている。」
「はぁ?意味分かんねえ」
「私も分からぬ!だが、彼の教養は本物。物事の一手二手先を読む謎の人物なのだ。」
雑談を交えながら、身体の調子を尋ねる。
血圧や脈拍を測る様な機械も無ければ、副院長らにそのような技術は無いため、口頭での質疑応答のみとなる。
「時に、君は何故そこまで荒れているのだね?」
「ァン?......ッチ、そんな項目無いんだろうが、なら話す必要はねェだろう。」
「ぬう、君が言いたくないのならそれでいい。ただ、私が気になっただけなのでな。」
当たり障りなく、応答をする。
大体全て終わり、次のステップへと移ろうとした時、ウェンディゴが尋ねる。
「この足で運動するのか?」
「まずは歩く事から、君の脚は恐らく衰えているとのことだからな。」
「けっ、なんでもいいが、本当に意味があるんだろうなぁ。」
「知るものか。私は運動が苦手なのでな。」
徐々に恐怖が薄れ、いつものような態度に戻る副院長に、悪態をつきながら決められたメニューを忠実に消化するウェンディゴ。
表情には出ないが、恐らく体力的にはギリギリなところ。
歩く際には重心がブレてちょっとずつしか移動できず、1キロ歩くのに30分掛かっている。
しかし、その後2キロ3キロと増やすに連れ、少しずつスマートな歩みを見せ始め、開始から3時間で普通通りに歩けるようになっていた。
「ぜえ、ぜえ、ぜえ、ぜえ」
「なんで監督役の方が先にバテてんだ。」
「私は、ぜえ、デスクワーク担当なのだよ、ぜえ、君こそ、仮義肢が、ぜえ、足に食い込んで痛いなんて、ぜえ、ことは、無いかね?」
「ねえよ。アンタは休んでな。オレ一人で行く」
息切れながらも、確認をしてくる副院長に対してぶっきらぼうにそう答えると、一人で歩きはじめる。
しかし、そんなウェンディゴを、みすみす逃がす事はしない。
「待ちたまえ、これを、食べるのだ。」
そう言って副院長が差し出したのは、何かの肉の塊。
程良い大きさで、串に刺さって焼けている。
「まだ昼には早いだろ。」
「そうではない。運動をすると『かろりー』を消費するという。それは物を食べる事で回復する、魔力の様な物らしいが、それが無ければ、運動は体への負担でしか無い、らしい。」
暇な時、ヘレナ女医が受けている授業を聞いているだけなのに、何故か副院長はそれらを良く覚えている。
俺がこの世界の発音に併せて『カロリー』や『たんぱく質』などを色々と教え込んでいたが、それを覚えていたのだろう。
「私の目の届かぬ場所までは行くな。それと、適度に歩いたら、その度にこちらへ戻って来い。飽きぬよう、色んな種類の食物を持ってきている。」
「......分かったよ。」
そう言うと、歩きから徐々にペースを上げ、競歩並みにスピードを出したウェンディゴは、森の中へと消えて行った。
「私が担当した以上、来るよりも健康でなければ困るのだよ。」
「副院長というのは、伊達では無かったと。」
「ぬう、いつから見ていたのか、甚だ疑問だが、その通りなのだよ。医者には医者の矜持が有るのだ。」




