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「ヘレナ院長!今回ばかりは勝手が過ぎまず!以前拾ったあの【無能】を職員の雑用として使うのは良い提案でしたので何も言いませんでしたが、今回のあの子供っ、あんな子供にこの病院の指導者になってもらうなんて!そんなこと、絶対認めませんからね!」
眼鏡を掛けた、頭頂部が禿げている男は、ヘレナ女医にそう言っていた。
どうやら、俺について揉めているらしく、よく見れば、その言い合いも、三つの派閥で分かれているらしい。
一つは、ヘレナ女医につく派閥。といっても、恐らく【無】属性という子供と、ヘレナ女医だけが独立しているので、一つと言っていいのか分からない。
二つは、ヘレナ女医に食ってかかっている禿げを中心とした、俺反対派。
最後は、恐らく中立派。とは言え、禿げに近寄りたくないような目をした女看護師たちの集団というだけだった。
つまり、なにが良いたいかというと。
ヘレナ女医が圧倒的不利。
「どうも、俺が件の子供、ノア・オドトンです。」
「きっ君がかね!?君っ!自分がいったいなにをやっているのか、分かっているのかね!」
「ええ、使えないアナタ方の尻拭いをしてあげに来たんですよ。」
「なっ!!?」
驚き、侮辱されたことに怒る禿げは、口をパクパクさせ、金魚の様な顔になっていた。
それもそのはず、呼吸器官に魔力の塊を詰めてやったから、喋るどころか、息もできなくなっているのだ。
「一旦話を聞いてください。」
そう言い、禿げの喉に詰めた魔力を変形させ、呼吸はできるが、声帯を動かせないくらいの形を作る。
「今しがた3人の患者を診てきました。ある程度治療の跡が見えたところを考慮し、一つコメントを贈るとするなら『ナメんなゴミ共が』といったところでしょう。」
「ゴッ!?」
普段からエリート扱いされている自分達がゴミ扱いされたことに対して、あからさまに動揺する面々だったのだが、こんな中途半端なヤツらが今までやって来れた事に驚きを隠せない。
「このテガロという患者の腕を【治癒】魔法で治したのは?」
「わ、私......です。」
俺という子供に対して、どういう態度であれば良いのかを少し逡巡した結果、敬語という一番無難なところに収まる。
手を挙げたのは、中立派にいる女性の一人だった。
彼女が数少ない【治癒】魔法の使い手なのだろう。
「折れて曲がっている骨に直接【治癒】を行いましたね?あれではあの患者の体に一生ものの弊害が出るところでしたよ。」
「で、ですが、私はマニュアル通りに【治癒】魔法を掛けただけです!」
「なら、そのマニュアルが間違っているのでしょう。これからは怪我に【治癒】を掛けるだけの治療は認めませんので、心しておいてください。」
他にも、二人の治療を行った人間を洗い出し、少しの説教をした。
とはいえ、簡単に診れそうな者は3人だけでなく、他にも大多数いたのだが、診るには時間が必要だった。
「これから一日かけて、軽傷の患者は俺が診て行きます。その間、ヘレナ女医は職員の説得を、ハゲと骨折は俺について来てください。」
驚いたようにこちらを見るハゲと、数瞬誰の事か分からなかったようだが、やはり驚いたように自分を指差す女看護師を連れて行き、近場の患者から治療していくことにした。
「そのクソ汚い白衣は脱いでください。それと、明日は汚れても良い服を着てくることです。」
「ッ、ッ、ッ!」
「あ、あの、副院長がなにか言いたげなんですが。」
「構わなくて良いでしょう。それより、アナタはとの最初に言葉が止まるのをどうにかした方がいいでしょう。俺は気にしませんが、不快に思う人はいます。」
「わ、わかり......わかりました。」
「はい、よろしい。」
『ボックス』の中身を確認する。
ポーションの在庫と、ゴブリンの皮製の布。
スライムのジェルなどの要らなかった素材は再利用ができるし、ある程度工夫をすれば治療器具も作れるだろう。
しかしながら、必要なのは清潔さ。
不衛生な環境が無くなるだけで十分に治る者もいる。
十分に普及できる程の布が要る。医者が使う白衣も新しい物が必要だが、どこかに蚕でもいないものか......
それよりも、清潔さを保てる洗濯や消毒の機械が欲しい。
消毒は熱湯でもできるし、酒を買って来させれば......いや、酒の匂いは駄目だ。
となれば、アルコールを単体で作る......?
それが一番良いだろうが、アルコールの作り方なんて知らない。
次亜塩素酸ナトリウムなんかがあったら良いのだが、絶対に無いだろう。
それよりも、問題は医療技術。
清潔さを保っても、治せる怪我を治せないのでは話にならない。
そのため、不信感募る者を少数に分割し、俺の治療を間近で見せる。
「手始めに、この患者です。『木製の杭が上腕部を貫通』、これを治療したのはそこの女医......えっと。」
「ワイトです。」
「じゃあワイト看護師。君はどうやって治療した?」
「えっと、杭を引き抜きながら【治癒】魔法を使いました。」
「ヨシ減点、なんで引き抜いてから中を確認しなかったんです。おそらく現在まで続いているという痛みは、その時に体内に残った木片の影響ですよ。」
「うっ、それは、その、血が」
血が?苦手だと?
ほうほうほう、中々に腑抜けた事を言う。
「分かりました。では一週間で耐性をつけましょう。大丈夫、俺がいる限りアナタに怖いものなんてありません。」
「え?それは......」
一見、愛の告白の様に聞こえる言葉に、一瞬戸惑うワイト看護師。
しかし、次の瞬間には自分の行く末を想像してしまい、顔を青ざめる。
そう、絶対に目を逸らさせない。
目を閉じてもこじ開けるし、気絶したら起こす。
吐くなら、胃の中の物を空にしてやるし、漏らせば、膀胱が空になるまで垂れ流させてやる。
「ひぃ......」
「ッ!」
「副院長?でしたっけ。アナタはヘレナ女医の補佐を完璧に行ってもらうために、他の者よりも多くの知識と思考を要求しますので、そのつもりで。具体的には金勘定と医療と患者のデータを全て丸暗記できるまでになってもらいます。」
それはそれで怖いのか、ワイト看護師と同様、顔を青くする副院長に、ニッコリと微笑む。
さて、治療を始めるか......




