79
荷物を全て『ボックス』に詰め込み、いざ学園を出ようとすると、校門前に一人の女性を見かける。
見覚えのある美女で、清潔感のある真っ白な白衣が特徴的な、その女医は。
「ヘレナ女医。」
「お、おおっ!来てくれたか!中々出て来ないから、少し不安になったぞ。」
「?俺の事を呼んでいたのですか?」
「?ああ、校門の警備員に、ノア・オドトンを呼びだしてもらっていたのだが。」
なるほど、入れ違いかなにかで、タイミング良く俺が出てきただけだったか。
「実は今日、退学になりまして、実家に帰る前にすこしだけ、ヘレナ女医の所へ寄ろうかと思っていました。」
「そうか、それなら丁度......へっ!?退学!!?」
最早、最初の印象であったクールビューティ―は完全に消え去り、切れ長の瞳を大きく見開いて驚いているヘレナ女医は、とても表情豊かだった。
「一体何故?なにか問題でも起こしたのか?」
「説明が面倒だから省くけど、学園長と問題児をボコッたら退学になった。」
実際は因果関係が逆なのだが、この際どうでもいいだろう。
問題なのは退学になった経緯とそれに関する事柄だ。
「面倒なら聞かないことにしよう。君が意味無くそんな事をするとは思えないからな。」
「買被りです。わりと激情家なので、医者に対して容赦無く罵声を浴びせたりします。」
「ふふっ、そうだな。」
適当に談笑しながら、自分のステータス画面を操作している。
学園長から奪った『マジックシステム』を解析して見ると、面白い事が幾つか書いてあった。
『マジックシステム』
・全ての属性に対する適性がある(ただし一つを極めることはできない)
・自分の基礎魔力の100倍の魔力を使える(ただし自力では育てられない。)
・見た【固有】属性を模倣できる(ただし再現度は20%前後)
・複数の魔法を同時に使える(ただし個数分の1程度の威力)
・魔力の練度が上がる(ただし【無】属性魔法は使えない)
・相手の魔力量を見通せる(ただし属性はわからない。)
面白いと思えるのは四つ目の項目『・複数の魔法を同時に使える(ただし個数分の1程度の威力)』。
これは威力が関係しない魔法であれば、いくらでも並行使用できるということだろう。
つまり、今までは出来なかった『倍加』の複数使用や、『魔力拳』による千手観音化もできる。
夢が広がるわけだ。
因みに、『倍加』で増やせる最大値は100が限界で、『魔力弾』の数も100発が限界。
しかも、同時に扱う分には全て同じ動きしかしないため、操作としては大雑把なものとなる。
ということで、それ以外の項目を全てポイントに変換し、40を『鑑定』の方へと回す。
これで『鑑定』は100になり、残った4項目目、略称『並行』が20となった。
『鑑定』は熟練度的な感覚で、ポイントによって見える解像度というか、詳細さが変わるのだが、『並行』はどうなのだろう。例えば、一度に行える個数が増えるのか?
検証をしたいのだが、今は人前だ。
さきほどからステータスを確認しているのすら、すこしチラ見されているため、あまり大きな行動はしないほうがいいだろう。
「そういえば、君の言っていた【無】属性というのはどのような魔法を使うんだ?参考までに聞かせてほしい。」
「超能力、と言って分かります?物を持ち上げたり、ワープさせたりするんですが、基本的には想像もできないような超常現象が起こせます。」
「ざっと矛盾している事を言ったけど、それを使ってどうやって彼、ヴィル君を生き返らせたの?」
「心臓を動かしただけですね。今後の予習でもありましたが、心臓に刺激を与えて、動かすのが基本的な目的です。」
魔力を直接心臓に巻き付け、心臓マッサージ(直)をするのも手ではあったのだが、基本的に魔法を使える人間の体内には、常に魔力が渦巻いており、他人の魔力は受け付けない。
俺が例えば、時間を止められるような近距離パワー型のスタ○ド使いだったなら、直に心臓を動かすのも良かったかもしれないが、あくまで俺は【無】属性魔法使い。
「まずは電気についての勉強や、人体の生理現象について学ぶ必要がありますね。」
「なかなか大変そうなテーマだ。お手柔らかに、とは行かないが、見放さないでもらえればいい。」
魔法を覚える分にも、十分な知識や反復練習が必要だったり、才能や思考能力が必要だったりするので、魔法が使える人間も、それなりに勉強ができるはずだ。
問題は、ヘレナ女医がどれだけ常識を捨てられるか。なのだが。
「例えば、君の技術であれば、完全に切断された四肢をくっつけることも?」
「可能です。同じ人間の物であれば、問題無く。完全に欠損していても、場合によっては動く義肢を作る事も可能だと思います。」
ヘレナ女医は最初から俺の蘇生術を見ているため、わりとあっさりと受け入れそうな雰囲気がある。
この分なら、問題は無いだろう。
「電気以前の、道具無しでできる方法から始めますが、ヘレナ女医の魔力はいくつですか?」
「えっと、そうだな。1300といったところか。日常的に魔法を使うから、量と【治癒】魔法の練度だけならかなり高い方だ。」
【無】属性を覚えさせるには丁度良い量だな。
しかし、あくまでサポートとして、『ボックス』や『サイコキネシス』を覚えさせるだけだ。
マリナ教師達の様な、ガチガチの魔法訓練はしない。
「一番初めに、件の妹を診させて貰います。」
「ああ、妹は私が運営を任されている病院の、地下隔離施設にいる。基本的には重篤な感染症の患者や、奇病持ちを入れておく施設なのだが、君が見たら、その、怒るかもしれない。」
「あまり期待なんてしていません。清潔さが無いのは百も承知です。」
まだ道端に糞便が落ちていないだけマシだとは思うが、それでもこの世界の技術体系では、病院とは名ばかりの監禁施設があるだけだろう。
どの様な劣悪な環境なのかは、見る前から多少予想がついている。




