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「というわけで、俺は退学となり、学園から去ることになりました。」
『............へ?』
教室に帰ってから放った一言に、教室内の全員が耳を疑う。
まさか、生徒同士のトラブルを処理しに行って、退学という話になるとは思ってもいなかったのだろう。
「え!?ちょっと待って!?1から、いや、それよりも、なんの話をしに行っていたの!?」
「どういうことだオイ!!はっ!?マジなら頭湧いてんだろ!!」
「は!?え!?は!?」
「え、もしかしてノア君、遂に誰か殺した?え?」
「んなわけねえだろ!だけど、それくらいじゃないと、いや、でも。」
「いやいや、ノアは俺を生き返らせたんッスよ!?殺しても死なないようにするッスよ!」
「それもそうか!」
皆の言葉が中々不穏な所へ行ってしまったので、少しだけ魔力を垂れ流して黙らせる。
『......ッ』
「よしよし、みんなちゃんと魔力を肌で感じられるようになったね。俺はみんなが成長している事にとても喜んでるよ。」
『......っ』
魔力を浴びた時とは少し違う反応を見せる皆に、できるだけ笑顔で接する。
「もしかしたら、数年内に戻ってくるかもしれないけど、あまり期待はしないでほしい。これから、少し寄るところに寄って、実家に帰ったら、実家近くの町のギルドで働くつもりだ。まあ、できるなら、皆には俺の事を覚えていてほしい。」
「忘れるわけねぇぜ!お前見たいな濃いのか薄いのか分からねぇやつのこと!」
「私達、これからも【無】属性を練習するからね!」
「だから、絶対帰って来てくれよ!」
皆の言葉を背に、俺は教室内の私物を回収し、寮へと戻る。
寮内の清掃員さんに挨拶をし、部屋に戻ると、そこにはハクとルルロラルが待っていた。
「待っていたのか。教室にいなかったから、ちょっと心配したぞ。」
「ノァのポーションのお陰で、問題無い。」
「ルルロラルが顕現しているのは何故?」
「私は、何故か主の【天国】へ戻れなくなっていた。」
「だから、今は同じ部屋で寝てる。」
理由は不明だが、界天使ルルロラルはどうやら常時召喚されるようになってしまったらしい。
俺が意識を刈り取ったせいで、リンクが切れ、完全な自律状態になってしまったとかだと、責任を感じてしまうので、そうでないことを祈る。
「ノァが学校を辞めるなら、私もやめる。」
「そう言うと思ったが、絶対に駄目だ。」
「断られると思ってた。でもなんで?」
「ハクは俺と一緒にいても、成長できない。一人で【天国】魔法を訓練した結果、ルルロラルみたいな強い天使が召喚できたけど、俺と一緒だったらいつまでも出来なかっただろう。」
「それなら、それでも」
「良くない。ハクには強くなって欲しい。俺といることを、剣を振ることよりも優先するのは、ハクらしくない。」
「......」
「俺に縛られず、抑えつけられず、自由に育ってほしいんだ。」
「......ノァは、私の事嫌い?」
「いいや、今まで出会った人の中で、一番好きだ。」
「......なら」
敏捷500越えの俊足が俺の不意を突く。
一瞬で縮まった俺とハクの顔は、やがてゼロ距離へ、口と口が小さく接触する。
「じゃ......」
そう言って消えたハクを目で追う事もできず、自分の唇に残った余韻に呆けていると、
「主は短気だが、こういう場面では奥手だ。いざというときには汝がリードしてやるのだぞ。」
「あの面倒な喋り方はやめたのか。」
「うむ、これからは多少コミュニケーションを重視しないといけないのでな。」
「じゃあ、俺が留守の間、ハクを見守っていてくれ。」
「当然だ。」
そう言ってルルロラルは消え、俺の部屋に、静寂が戻る。
「忘れ物は、特に無いな。『ホムンクルス』たちがもしかしたら帰ってくるかもしれないが、入れ違いになるのも一興か。案外、この学園の生徒になるかもしれないな。」
あるかもしれない未来を想像して、ふふっと笑う。
そして、そういえばと棚の奥辺りを探って、俺の荷造りは順調に進んでいった。




