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俺は、学園長室から出てすぐそこにいたマリナ教師を見つけ、傍に寄った。
おそらく、ずっと心配していたであろうマリナ教師は、俺の姿を見ると即座に抱擁を仕掛けてくる。
「大丈夫だった?何か酷い事は?」
「されませんでした。それよりもこれを。」
「?............ッッッッッ!!!!!!」
髪が逆立つ程に驚いているマリナ教師は、そのまま学園長室へと殴り込みに行こうとするが、流石に止めた。
あの惨状を見せてはいけないと思ったのもそうなのだが、流石に一教師が学園長室へと殴り込みに行っては、やはり立場が悪くなる。
可能性ではあるが、マリナ教師が二人へ暴行を加えたと言われるかも知れない。
「これっ、これっどういうこと!なんでノア君が退学なの!」
「まあまあ落ち着いて。マリナ教師に頼まれた【無能】迫害については、学園外でも行えます。例え俺が退学になったとしても、マリナ教師の記憶から俺が消えるわけではないでしょう?」
「そ、それとこれとは話が別っ!それよりも、こんな不当なことって無いわ!!」
「まあまあ、憤るのは後にして、ベルナリンドさんが待っています。さっ、行きましょう。」
怒髪天を衝く勢いで怒り狂うマリナ教師の背中を押し、第二会議室とやらに案内させるも、流石に到着までの間にその火が収まることは無く、ずっと顔に皺が寄ったままだった。
◇◆◇
「ということで、再戦についてはお応えできません。」
「な、なんでですか!というか、退学!?闘技大会を初出場で優勝したアナタを退学なんて、アタマ大丈夫ですのっ!?」
事情を詳しく説明し、再戦を断ったところ、ベルナリンド先輩は特に怒る事も無く、むしろ学園に対して怒りを向けていた。
ヒステリー持ちだとか、第一印象は悪かったものの、別に本当の意味で悪い人ではなかったそうだし、後で聞いた話では、ヴィル君には直接謝ったらしい。
「これは直訴すべきですわっ!」
「とはいっても、それを受ける人物がもう正気じゃないので、ここは大人しく出て行くつもりです。再戦の方は、待ってもらうことになります。」
「あ、アナタは良いんですか!?学友と過ごす6年間というのは、人生においてとても重要なものなのですよ!」
「それくらいは知っていますよ。ですので、もしも学園長が変わって、何かの縁でここに来ることになった時は、よろしくといったところになりますね。」
入れ替わりには2年ほど掛かると思われる。
末端ではなく、この学園の頭を挿げ代えるとなると、手続きや準備でかなりの時間を要するだろうし、まず間違いなく、この強制退学書はスペア、本物は受理されており、取り下げにかかる時間よりも、期限の方が先に来る。
「あ、アレクサンダー殿下とは、どうなりますの?」
「心では友人と、しかし、中々に会える機会は減りそうですね。」
「Sクラスの方々は、アナタの退学を納得しませんわ。」
「それはとても喜ばしいことですが、そこで先輩にお願いが。」
「聞きましょう。」
真剣なまなざしで俺を見詰めるベルナリンド先輩なのだが。
そこまで緊張する様な内容ではない。
「【無能】への迫害、批判や差別について、貴族であり第一皇子の婚約者であるアナタが、どうかお力添えをしていただきたい。マリナ教師主導の元、【無】属性魔法を広めてくれれば、俺が戻ってくるのも早くなるかもしれませんからね。」
「あなた......いえ、わかりました。謹んでお受けします。」
そう言うと、ベルナリンド先輩は、席を立ち部屋から出る。
その背中は、俺に対して、『時間が無いから。早く他の者の元へ行け』と言っていた。




