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まず最初に口を開いたのは、グレイだった。
「恥かしくねえのかよ。あんな女に子供みたいに甘えて、中身良い歳した大人がよ!」
「前世もそこまで長く生きていないし、今の俺はここの生徒で八歳の子供だ。どう振る舞おうと勝手だろう。」
「じゃあオレがなにしようと勝手だな!今からお前のクラスに行って、女ども犯しても自由なんだな!」
「何言ってんだコイツ。」
支離滅裂な言葉を放ち、唾を飛ばすグレイに、少なからずドン引きしている。
こう、よく小学生とかにいる、他人の言った事を曲解するやつ。あんな感じのヤツを見ている不快感。
もちろん、小学生だけでなく、余裕で中学、高校、大人と続くまで、かなりのそんな奴を見たことがあるが、言っている事のレベルが小学生だ。
「学園長。俺とグレイをぶつけたのはアンタだと言うのは知っている。そのうえで聞く。今度は何だ?」
「......うむ。今回の事例は初めてでな。まさか命の奪取をせずに、相手からチートシステムを奪えるとは思わなんだ。そこでなのだが、彼に『プレイヤーシステム』を返してやってくれないか?」
「ふっ、ははっ」
まさかまさか。
よもや、見た目が仙人の様なジジイが、ガキの様な事を言うとは思うまい。
失笑を越えて苦笑し、苦笑を越えて笑い、笑いを越えて冷笑となる。
「泥棒が笑ってんじゃねえ!通報するぞ!お前なんて、ちょっとオレが周りに悪口を言ったら、すぐ終わりなんだ!」
「こんな奴に返す必要があるとは思えないな。」
「くっ......し、しかし、君が持っていても使える物じゃない。君は察するに、チート能力というものを忌避している。であれば、手放したくはないかね?」
「忌避はしている。それを誇らしげにしているそこのグレイも問答無用で嫌いだ。だが、その能力を無理矢理改竄して、正規のシステムの強化パーツにするくらいは出来た。」
正直な話をすると、『プレイヤーシステム』はもう戻らない。
俺が心の中で、完成したと念じた瞬間、それがポイントに変換されることはあっても、元の形には戻らなかったからだ。
とは言え、それを馬鹿正直に教えてやるつもりはない。
「お前は俺を殴って、馬鹿にしたから、慰謝料を払う義務がある。まずオレのチートを返して、一千万円払って、それで、えっと、オレの靴を舐めて謝罪しろ!」
「断る。お前が次の人生を送る手助けくらいならしてやるが、俺に非は一切無い。それと、この世界の単位は円じゃない。」
「知るか!お前の意見なんて聞いてねー!お前みたいなクソ雑魚キャラはオレの言う事聞いてりゃ良いんだよ!」
暴言というよりは度を越えたワガママを聞き流しながら、静かに学園長に視線を送る。
「うっ、頼む、私に免じて、どうか......」
「アンタに免じる理由は無い。そも、アンタは俺の魔力量を馬鹿正直にバラして、周りを混乱させた前科と、グレイを無理矢理引き合せた前科がある。むしろ何かを頼みたいのは俺の方だ。」
「うぅっ、ではっ、もしも返さないのなら、君をこの学園から除名するっ。それでも良いのか!」
「構わん!良いか?そんな脅し文句が利くのは、ただの八歳までだ。転生者の八歳に通用すると思うなよ。」
「くぅ、くぅうう!!」
顔を真っ赤にし、両手を机の上で握りしめるジジイの姿は、まるで駄々を捏ねる赤ん坊のようだった。
「お前の様なガキには分からんだろうが、俺はお前らを許すつもりで来た。俺に入らないチートシステムなんぞをなすりつけ、トラブルの種を押し付けた罪を、大目に見てやるつもりだった。だが、そこまで言うのなら許さないでいてやろう。」
「ぜ、絶対に、退学にしてやる!良いのかっ!?金を出してる親に申し訳ないと思わないのか!」
「第一に、俺は自分の学費を自分で稼いで出している。第二に、その口ぶりだと、お前今世も親に学費を出してもらったのか。第三、俺を退学にしてみたら分かることだが、お前は絶対に後悔するだろう。」
まさか、第二の人生で親のすねをかじるヤツがいるとは。
いや、意外と多いのかもしれない。
「っっ!!もういい!話にならない!これを持って出て行け!」
激昂した学園長は、一枚の紙を俺に突き付ける。
そこには『退学強制』と書かれており、下には俺の名前が書かれていた。
ふむ、どうやら、俺がチートシステムを返しても、これで退学にするつもりだったらしいな。
しかし、いったいグレイに、どうしてそこまで執着できるのやら。
「ははっ、良いだろう。『魔力拳』......邪技『背骨砕き』」
机に足を着け、ジジイの首から胸骨にかけてまでを殴る。
柔らかいくらいの煉り方をした『魔力拳』により、衝撃は全身へ、余すことなく流れて行き、それが体内で反響、終着点は、学園長の背中の中心、背骨の中にある脊椎。
衝撃によって気絶した学園長は、恐らくこれからの短い人生を、一切身動きすら取れず、一人寂しく死に絶えることになるだろう。
......少しだけ、もう一つスパイスを加えるとするか。
「邪技『天網恢恢』」
両こめかみを親指の関節部で打ち、脳内をぐちゃぐちゃにかき乱す。
これで、これから一生、ろくな思考すら出来ず、生きた屍になるが、当然の報いだと俺は思う。
「おま、お前!学園長を殺したな!お前終わりだぞ!」
「こっちは、まあ殺しても構わないか......破技『縁脆』」
正中線に三連打。
顔面陥没、内臓損傷、股間破裂の三連打。
この世界の医療技術では絶対に治らないレベルにしたので、一生そのまま過ごす事になる。
場合によっては、数日のうちに死ぬか。
「では、失礼します。」
死屍累々の部屋から退室し、脳内でパルエラの声を聞く
『チート『マジックシステム』を奪取しました。って、二人目じゃあんまり驚かないね。』
『人間があそこまで躊躇無く人を殴れるのか、ノアがそういうタイプなのか。わかんねェなァ。』
まあ、俺がそういうタイプなだけだろう。
とは言え、今日中には荷物をまとめて、この学園を去ることになるのだろうな。
急なことだが、仕方ない。
人生楽しからずや、こんなこともある。




