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「――――です!」

「―――――だな。」


 喧しい声と、人の気配で、俺は心地の良いまどろみから覚醒する。

時間を見ると、どうやら俺は30分程眠っていたらしい。


「なんの騒ぎ?」

「ん?ああ、君か。今、君の様な重傷者が運ばれて来た。全身余すところなく皮膚が爛れている。更には心臓も止まっており、死亡は確定している。」

「この試合で死亡者?一体どんな。」

「魔力暴走によるものという報告があった。......ふぅ、君に話したお陰で、いくらか落ち着いた。さて、これをどうしたものか。」

「心臓が止まって全身に火傷だな。心臓マッサージはしたのか?」

「心臓マッサージ?何?それは。」

「まさかだな。」


 俺は女医を押しのけると、手に魔力を纏い、電気マッサージ器の様に胸と脇に手を当てる。

ドロッとした感触の肌から伝わるのは、火傷直後の熱と、心音も肺の動きも聞こえない静寂。

 心停止というよりは、心肺停止だろう。


 そこで、俺は両手に纏った魔力で空気中の水分を振動させる。

電子レンジの構造をうろ覚えで再現し、小さな静電気程度の電気を魔力の導線で煉る。


 電気マッサージ器の正確な電力と電圧は知らないが、衝撃で心臓が動き始めればそれでいい。


 魔力で電気を煉るのと同時進行で『ボックス』の中にある『癒善草』ポーションを数本取り出し、全身に掛ける。

 その際、掛けたポーションの液が地面に落ちる前に浮きあがり、また上から掛かる様にする循環構造を『サイコキネシス』で行う。


 溜まった電気を放出し、患者の体が跳ねる。


「なにをやっている!?遺体を損害するのは違法だぞ!」

「俺は助かる命を見捨てる方が違法だと思いますね!!」


 『サイコキネシス』による壁で、周囲と俺と患者を隔離する。

ポーションによる回復で、見る見るうちに身体のケロイド状になった皮膚は再生し、少しずつ面影が戻ってくる。


「これは、ヴィル君か?」


 犬系の端正な顔。年不相応な態度と実力、そして天賦の才と巧妙な戦略知識を持つ彼が、こんな状況に陥る。

原因は魔力暴走?それはおかしい。ヴィル君はSクラス内でもかなり魔力の扱いが上手かった。

 それに、彼の得意とするのは繊細な魔力の操作。

仮に何かハプニングがあったとしても、彼が魔力を暴走させるとは思えない。


となると、相手側の暴走か?

 ヴィル君はAブロックで、恐らく戦ったのは、アレクサンダー君に勝ったベルナリンド先輩。

 彼女の戦い方は見ていないが、可能性としてはそっちの方が高そうだ。


「こ、これは......!?」


 今まで、鋼の様に硬かった女医の顔が、驚きに歪む。

中々爽快だが、今は集中を切らす訳にはいかない。


「小技『(つちのと)』」


 レオンとの決着に使った衝撃を伝える技を、ヴィル君の胸に当てる。

勿論衝撃はある程度抑えてるが、肋骨の二、三本は仕方ない。


「......ガバッ!!ゲボッ、ゲボッ!」

「よし、自力で呼吸できてるな。」


 血を吐いたヴィル君は、そのまま流れるように大きく深呼吸をし、目を開く。

火傷は9割9分取り除き、後は『癒善草』ポーションを飲ませるだけだ。


「ゲホッ、ガッ!ふー、はー。」

「意識はハッキリしてるか?この指は何だ?」

「に、二本。」

「残念、人差し指と中指だ。」

「紛らわしい......ッス」

「とりあえず、意識と思考はハッキリしているようだな。」


 ちょっとした冗談を交えて、ヴィル君の安否を確認するが、どうやら後遺症らしき物は無いらしい。

強いて言うなら、それなりに長かったヴィル君の頭が綺麗に禿げていることくらいだ。


「それで、ヴィル君が死ぬ程の魔法暴走。どんな相手だ?」

「あれはたしか......アレクサンダー殿下と戦ったベルナリンドという先輩ッス。」

「それは把握している。」

「アレクサンダー殿下に対して言った事、つまり【無】属性への中傷を取り消せと言ったッス。実際に【無】属性魔法で撹乱して、それなりに追い詰めもしました。」


 そこまで言うと、ヴィル君は頭に手を当て、痛みにこらえるように目を瞑る。


 魔力暴走による爆発を浴びたのなら、大量の属性魔力が体内に侵入していることだろう。属性との相性が悪ければ、最悪昏睡が長引くかもしれないが、ヴィル君は【火】属性も使えるから、頭痛程度で済んでいるのだろう。


 これが例えば俺だったとしても、大した変化は無い。

立ちくらみや頭痛はあっても、そこまで重症化はしない。

 だが、これが【水】属性しか持っていない人間だったり、その爆発に複数の属性が混ざっていたら大変な事になっていた。

 最悪、後遺症が残って、属性魔法が使えなくなる可能性もあっただろう。


「そうッス。あのベルナリンド。かなりのヒステリー持ちで、後半では猿みたいに金切り声をあげるだけでした。」


 ヒステリー持ちの女。

正直、得意な者は少ないだろう。


「分かった、恐らく俺が次に当たる相手だろうし、仇は取ってやる。」

「はは、死んでないッスよ。」

「いや?普通に死んでたけど。」

「ぇ......マジッスか?」


 あまり深く考えると回復の妨げになるだろうし、俺はヴィル君をベッドに寝かせ、そのままカーテンを閉じた。


「おい、君、一体何をやった?死者を蘇生させるなんて、【治癒】属性でもできない。もしかして、それが君の【固有】属性なのか?教えてくれ!」


 そして、これからの人生設計に対しての小さな修正を覚悟し、女医と向き合った。

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