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「破技『己』」
レオンの出した右手の正拳突きを正面から捉え、共に併せる。
関節を外され、肉が剥がれ、相当の苦痛を浴びているのに、レオンの目にはやる気が満ち満ちている。
「オラァアアア!!」
「ウラァアアア!!」
俺とレオンの叫びが重なり、地面に衝撃が走る。
互角の打撃がぶつかり合い、足を中心に放射線状に地面にヒビが入る。
しかし、俺とレオンの身体に響く衝撃は会場の比ではなく、少なくともぶつかり合った拳同士はめり込みあう様に潰し合い、内臓が破裂した音が良く聞こえる程に衝撃が全身に走る。
約1秒程度の接触で、俺もレオンも満身創痍の状態になり、すこし動くだけで倒れてしまいそうになる。
「ぐっ、がばっ!」
「べへっ、ぐぼっ!」
吐血し、バケツ量の血が地面に落ちる。
手を中心に広がった衝撃のため、足はまだ全壊していない。
「やるじゃんか。」
「お前もな。」
肩で息すらできないほどに疲弊し、内出血と変形が織り混ざった全身の傷は、実はそこまで痛くない。
俺とレオンは互いに近付き、折れた手で相手の肩を掴む。
『これは、友好のハグかッ?』
『いや、まさか、これは、誰か、止めッ――』
両腕に力が入ると同時に、レオンに引きこまれる。
負けじと俺も力を入れ、前かがみになると。
ガシュッ!!
頭蓋同士がぶつかり合い、薄い眼底や鼻っ柱が音を立てて折れる。
脳が揺れるだけでなく、視界が点滅し、平衡感覚が失われる。
倒れてしまった先には、恐らく俺と同じ様な状態のレオンの顔がある。
『りょ、両者気絶ッ!?前代未聞!素手同士による異常極まる激戦だァ!!』
『誰か!【治癒】属性の者を呼べ!早くしろ!』
『まさか年齢一桁の者同士が、大人も足が竦む攻防を―――』
『やかましい!実況している場合か!』
実況と解説がなにやらもめているが、今はこのまま、気持ち良く眠りたい。
そう思った時、ふと視界に、彼女達の顔が映る。
心配そうに顔を歪めるマリナ教師。
歯を食いしばって手を握り締めるハク。
そして―――
気付けば『俺』よりも『ノア・オドトン』が自己主張で勝ち、身体に力が入る。
「ごめんな。共倒れは出来そうにない。」
「......あぁ。」
身体が反動で揺れるほど、大きく仰け反りながら立ち上がり、足と腹に力を入れて直立する。
全身は激痛に軋むが、意識を手放すわけにはいかない。
『これは......』
『立っているのはノア・オドトンだァ!!勝者、ノア・オドトン!!』
拳を天に突き付けて勝ち名乗りをする。
掲げた拳はデコボコだったが、それでも正しく天を指差す。
「ほら、寝てないで行くぞ。」
「頼んだぜ、兄弟。」
ほんの数分の、俺とレオンの戦いは幕を閉じた。




