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 包帯男との話を途中で終えて、俺は目の前の男と対峙する。


健康そうな褐色の肌に、少し色の薄い金髪の、成長すれば女泣かせになりそうな男だった。


 特筆すべきはその瞳、真っ青な虹彩に浮かぶ小さな六芒星は、明らかに何か特別な物であり、全身から溢れ出る魔力は年齢相応の物ではなかった。


「いやー、ノア君?ノア君って強いねー。まさかあのグレイパイセンを倒しちまうなんて。」

「因縁深い相手だったのか?」

「いやいや、俺、あいつの事嫌いだったんだよ。なんか違和感の塊みたいな奴で、明らかに不自然だった。」


 軽薄そうな口調からは想像もつかないような油断の無さ。

軽口の合間に見せる鋭く微細な殺気は、身体に裁縫針を刺されているような気さえする。


「あいつは全てにおいてハリボテ感が隠せて無かった。積み重ねって言うのかね、まるで誰かに力を貰ったかの様な歪さがあった。」

「へぇ」


チート能力を神にもらったというのなら、確かにその通りだ。

まさか一般人がそれに気付くとは思ってもいない。

 しかし、話を聞くに、恐らく彼は転生者ではない。

まだ名前も知らない彼だが、そこは信用できる。

 何故かは分からないが、何故だろう。


「名乗り遅れた。俺は最強を目指す者。ステータスなんて目に見えた数字から解放された、究極を一身に包みこみ、この世界をぶち壊す者。レオン・オーディン。」

「カッコいい名乗りだな。」

「だろ?」


 ニヘラと笑い、レオンは両手を力強く固める。


「俺のステータスは全て一桁。属性の適性も一つとして無い。だが、侮ってくれるな?」

「侮る訳がない。」


 全身からひしひしと感じるこの感覚。

レオンはこの世界の異端者だ。この世界の理を完全に無視している。


 先程強化された『鑑定』でステータスを見たら、その事実が浮き彫りになる。

弱いヤツには絶対に出せないこの雰囲気。

 その空気感に、『ノア・オドトン』が沈み、『俺』が出る。


「こんな相手は初めてだな。」

「そうか。俺達、気が合うかもな。」


 俺とレオンは互いの射程距離、1メートルという至近距離まで近づき、拳を突きだす。


「最高の試合になりそうだ。」

「ああ、同感だぜ。」


◇◆◇


 俺達の試合は事の他静かに始まった。

というよりも、拳が肉を打ち付ける音が一切しなかった。


 互いに魔力も剣も使わず、互いの拳を叩きあう。

その際に、受ける側がその威力を全て後方に受け流しているため、本来発せられる音がしないのだ。


 身体の関節部を軸に、全身に回転を加える事で、威力を受け流し、時に相手に返す。

そんな攻防を行いながら、少しずつ時は過ぎて行った。


 互いに限界が見えない叩きあいは、次第にスピードを上げ、風を切る音が消え、手は影になり、そして消えて行く。


 ある意味、至高の時間だった。


「少しだけハードルを上げる。ついて来い」

「ああ、良いぜぇ」

「連技『髑髏蛇腹』」


 破技『髑髏蛇腹』とはまったく違う技。

全身から弾力が消えうせ、全身は宙に浮く綿の様に、軽やかに舞う。


 武というよりは舞、そんな事を言われても怒れない。

むしろ、そんなコンセプトの技だ。


「連技『蜥蜴蜻蛉(とかげかげろう)』」


 レオンの拳は流から斬へと形態を変える。

しかし、その攻撃が俺の体を裂くことは無く、かわされ、いなされ、流される。

 決まったという一撃があれば、それはまるで蜃気楼に水を掛けるように消えてしまい、俺は無傷のまま。


「すげえ受け技。なら、攻め技はどうだい?」

「良いだろう。」


 防御から攻撃へと転じ、重心を後ろから前へと向けなおす。


「破技『(かのと)』」


 静寂仕切っていた闘技場内に、大音量の爆発音が響く。

金属がぶつかりあい、擦れ、へこみ、その全てを一つにしたような、金属が出しうる全ての音の集合体の様な衝撃が走った。


 俺の正拳突きが腕をクロスにしてガードしているレオンに当たっている。

音の原因はこれだ。


 興が乗って、つい奥義を出したがそれを腕二本でガードするとは、大した防御だ。


「ひぇ~、痛ぇ!ヒビ入ったァ!」

(コレ)受けてヒビだけじゃ、自信を無くすぞ。」


 最大火力の技をヒビで済まされてはたまった物じゃない。

魔力を使っておらず、自分の素の身体能力だけで技を出しているとはいえ、日本にいた頃にはこれで胴体部分の骨を全て粉砕骨折までは出来た。


 見たところ腕で受けて肘の関節で衝撃を和らげ、肩の関節で衝撃を和らげ、背骨の関節で衝撃を和らげ、膝の関節で衝撃を和らげ、足首の関節で衝撃を和らげ、足から地面に余力を逃がしたな。


「コツは掴んだぜ。」

「そうかい。じゃあ行くぞ。破技『(ひのと)』」


 『辛』で出した右腕を引くと同時に、左腕を突き出す。

金属的な『辛』に比べれば、幾分か生々しい技ではある。

 足、脚、腰、背、脇、肩、頭、肩、腕、手。それら全てをそれぞれ回転させ、突き出す力よりも回転させる力に集中させた技。


 シャコッと関節が外れる音がし、激痛が走るが、その威力が緩まる事は無い。

迎え撃とうとしたレオンの拳を捉え、それに併せる形になる。


 それは迎撃のようだが、恐らく衝撃を受け流すため、ひいてはできるだけ威力を出させないためのものだろう。


 だが、その判断は残念ながら悪手だった。


「ぐううおおおお!!!???」


 合わさった拳が回転の影響で無理矢理回される。

指の骨はごちゃごちゃにされ、手首は外れ、肘も外れ、肩も外れ、肩甲骨が肉を巻き込み、肋骨が寄る。


 複雑骨折や粉砕骨折どころではない大怪我だ。


「すげぇ、なぁ!!」


 アドレナリンで緩和しても余りある激痛を感じながら、レオンは脂汗を額に浮かべる。

しかし、その見ていられない状況で、無事のもう片腕を突き出してくる。


 まさしく、その意気やよしと言ったところか。


「奥義を三回も使わせるとは、見事だ!!」

「来いやァア!!」


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