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「あっ!ノア君おっそい!もうアレクサンダー君の試合終わっちゃったんだよ!」
「すまない。野暮用というか、面倒な姉の相手をしていたら遅れた。」
観客席に戻った頃、既にアレクサンダー君の姿は場内に無く、別の生徒同士が戦っていた。
恐らくこのどちらかが、去年優勝組のシードなのだろう。
「え!ノア君ってお姉ちゃんいたんだ!てっきり一人っ子か、一番上だと思ってた。」
「長男という意味では合ってるが、一応上と下に一人ずつ女兄弟がいる。」
ふと、アスタは元気にしているだろうかと心配になってしまうが、あの両親の元で不自由な生活はしていないだろう。
「お、試合が終わった。じゃあ次はノア君?」
「ああ、じゃあ行ってくる。」
隣の席の女生徒にそう告げて、俺は観客席を立った。
◇◆◇
『癒善草』を飲んで掛けて、手と足を応急処置した後、魔力で簡易的なギプスを作って固定した。
骨が皮膚を突き破って出ていない分、掛けた『癒善草』はそこまでの効果を発揮しなかったが、それでも腫れは引いて痛みも薄まった。
『次の試合ィ、ノア・オドトンとグリス・バンドロの戦い......のはずだったのですがァ、急遽変更がありまして、対戦相手の変更が決まりましたァ!ということで、グリス・バンドロの代わりに出たのはッ、なんとなんと、前回大会優勝者ッ三年、グレイ・ノットマンッッッ!!』
『彼は類稀なる剣術の才能と、更に基本属性六種を全て扱える事に加え、未だ誰も見たことが無い【固有】属性の使い手だそうで、その端正な顔と相まって人気の高い生徒です。』
ほうほう。
俺はアナウンスの紹介を聞きながら会場に向かっていっていると、廊下の小さなへこみに躓いた。
「っとと。やっぱりまだ足が不調か?」
気にする事無く歩を進めようとした矢先。
「あっ!危ない!」
どこからともなく大きな壺が俺の頭めがけて落ちてくる。
避けるにしても体勢が整っておらず、足には十分に力が入らない。
「『魔力盾』」
ので、ちゃんと『魔力盾』で壺を受け止めたあと、優しくその場に置き直した。
「大変だ!テイム実習用の魔物が逃げ出した!」
『分身』を使ってその処理に向かわせ、俺は顔を引き攣らせる。
「流石に偶然じゃないよな。」
一抹どころか、胸騒ぎすらする不安の塊を感じながら、俺はアナウンスを聞きながら場内へと向かった。
『このグレイ選手の不思議な所は、今までの試合で数々の不戦勝を続けてきた異例の幸運。調査の結果は不正無し。つまり、彼の成績は完全に授業中のみのものですが、それでもなお優秀。敗北知らずの三年Sクラス。噂ではSクラス最強とのこと』
へぇ、ほぉ、偶然ね。不戦勝ばっかりか、ふーん。ほーん。
「見つけた。こいつが『転生者』だな」
俺は今にでもトイレに駆け込みたい吐き気と憎悪、そして鳥肌を抑えながら、場内へと足早に進んだ。




