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ハクの試合は既に始まっていた。
しかし、勝負はまだ付いていないようで、ハクは無表情のまま相手を斬りつけていた。
【固有】属性、【魔剣】。
明らかに魔法的ではない名称ながら、ほぼノーコストでどこからか魔剣を召喚できるという【固有】属性。
魔剣には何かしら名前があり、練度が高まるにつれて種類が増えたり、技能が追加されるのだとか。
そして、その魔剣自体の性能も目を見張る程であり、一度は俺の腕を吹き飛ばしたものだ。
しかしながら、あの時使っていた魔剣をハクが使う事は無く、今使っているのは短剣の様な二振りの魔剣だった。
見たことは無い。というよりも、初めて魔剣を発現させた時、俺に怪我を負わせたハクは、その事を気にしているのか、俺の前で【魔剣】を使う事が無くなった。
それどころか、【天国】や【模倣】なども使えるらしいのに使わない。
そこまで過保護というか、慎重にならなくても良いと思う。
どうせ俺が怪我をしても、治すくらいなんて事無い。
「シィィィイイイイヤァァァァ!!!!!」
「ああああああああ!!!!」
豪速の剣技で相手を圧倒し、年の差や体格差を物ともしない重たい剣戟は、見る者によっては竜巻の様にも見える。
体重移動は緻密で大胆に、筋肉は水と鋼の様な緩急を見せ、剣と剣は互いの隙間を埋め合って、まるでパズルのピースの様に綺麗にはまる。
速度と威力。その二つに裏付けられた破壊力は絶大で、防御に徹する相手選手の剣をズダボロにしていった。
「ハァッ!!!」
「がっ!!」
最終的にへし折られてしまった剣を捨てることもできないまま、相手選手は剣の腹に殴られて気絶した。
『勝負ありィ!!!今年の一年Sクラスは一体全体どういうことだァ!!年上を圧倒し続けるなんて正気じゃ無いぜェ!!』
『アレクサンダー様、ヴィル君、ノア君、ハクさん、ソニアさん、今の所Sクラスは全て上学年と戦っていますが、一切手間取る事無く、最速で決着を付けています。』
ソニアさんもちゃんと勝てたらしい。
属性による手数の多さがメインのソニアさんが属性縛りをするというのは非常に危うい賭けだったのだが、聞く感じだと圧勝で収まったらしい。
『次の試合ッ!Dブロックッ、一年Sクラスゥ、ラルフ君ッ対同じく一年Sクラスゥ、レオナさんッの戦いッ!これはまさかまさかァ!!?』
『同じ教室で学んできた仲間同士が戦うとは、しかしこのトーナメント表は完全ランダム式。こういうこともあるでしょう。』
Dブロック最初に戦う選手はラルフ君とレオナ。
同じ場所で同じ訓練をして、同じ教師に【無】属性魔法を教わった者同士。
互いに不安や、ぎこちなさをもって試合をしてしまう
―――とか、そんな事は無かった。
『試合開......』
「レオナさん!!死ねぇぇえええ!!!」
「やかましいわよ!!てりゃああああ!!!!」
試合開始の合図をぶった切る様に始まった怒涛の攻防は、余波を観客席にまで飛ばす。
ラルフ君は『サイコキネシス』と『魔力弾』による牽制や目眩まし、それに剣自体に魔力を纏わせるタイプの『魔力剣』を使い、獰猛に攻める。
一方、レオナは魔力そのものを周囲に旋廻させ、その流れに剣を乗せる事によって威力を増し、水の流れの様な剣戟を繰り広げている。
両者まったく違う剣術の系統で、撃と流の様な相反する二人の戦い方は激しさを極め、観客席には当てられた魔力で失神する生徒もいた。
そう、そして、これがSクラス同士の戦い。
同じ仲間だから遠慮する。のではなく、同じ仲間だから構わず戦える。
力量を共有しているがために、安心して全力を振るえるのだ。
「喰らえ!『重力波』!」
「『魔力鎧』『魔力盾』!」
ラルフ君のオリジナル【無】属性魔法『重力波』は、その名の通り重力を操る。
とはいえ、実際に操っているのではなく、魔力を大きく上から覆いかぶせることで、魔力の流動や質量に嵩増しをするという技術だ。
使い方次第では『クリア』の様な効果も得られるのだが、まだラルフ君には消耗が多いようで、広げて被せるのがやっとなのだとか。
それに対して、自分に直接重みが来ない様に、二重の防御を張ったレオナ。
咄嗟の判断力や反射神経には時折驚かされるが、それでも『重力波』の影響はゼロになったわけではなく、徐々にレオナの動きを鈍らせていった。
「トドメだ!『重力柱』!」
ラルフ君が見せたのは、『重力波』の一点集中型、『重力柱』。
剣の重さと自分の腕力を魔力の流れる方向へと流すという、ラルフ君の得意技だ。
大きく上段に振りかぶり、『重力柱』に動きを塞がれているレオナに、必殺の一撃を―――
「甘い、アンタの癖、アンタの特技、知ってんのよ。『突』!」
「がッ!!?」
大きく腕が振り上げられ、防御が薄くなったラルフ君に、レオナは一点集中の突きを繰り出す。
その突きの先からは貫通性の高い、高密度の魔力が放出され、ラルフ君の肩を貫いた。
――――バタッ
嵐の様な試合が終わり、全員が言葉を失っているところに、ラルフ君の倒れる音がした。
その音で会場中の全員が試合の終了を理解し、湧くに湧けない、困惑した様子を見せていた。
『こ、これがSクラスクオリティィ!実況が実況を出来ずッ!解説が解説をできないッ!なんという攻防、なんというハイクオリティ!やはり今年の一年Sクラスは最高だァ!!!』
実況の声が響き渡り、ラルフ君は担架で運ばれ、それを追ってレオナも退場する。
こうしてSクラス全員の初戦が終わった。




